10年間の進化
2020.03.05
パラメトリック・ボイス 隈研吾建築都市設計事務所 名城俊樹
少し前から、10年以上前に竣工した物件のリニューアルを手掛けている。
自分がかつて担当した物件のリニューアルということで、当時考えていた意匠から、現在最良
と考えている意匠にアップデートを出来るという大変幸福な仕事であるが、改めて当時のデー
タを確認してみると、技術の大きな進歩を感じている。
設計・監理を行っていた当時を振り返ると、大学院生から社会人になって最初期の物件として、
何をして良いのかも良く分からず、がむしゃらに自分が持っていた技術の全てを使って検討を
行った。おそらく、当時の私は、一般的な建築設計者よりも少しだけ3Dに長けていた方であっ
たと思われ、結果として出来た建物は、かなりコンピューター内で動かしていたものと近い印
象であった。私にとっては、3Dモデルの重要性を認識した物件であり、その後のスタディ方法
にも大きな影響を与えているが、今と比較してみると、いかに不自由なツールで検討を行って
いたかを痛感している。
日々の業務の中で使っているツールは、少しずつデベロップされていっているので、その明確
な進歩をなかなか感じることが出来なかったが、今回のように10年以上の期間を空けると、そ
の進化に驚かされる。
かつて、最新のマシンを駆使してレンダリングを行うことではじめて確認出来たような検討内
容が、今はプレビューレベルでも容易に再現することが出来るようになってきている。それだ
けではなく、クライアントや施工者との打ち合わせの中で、リアルタイムにモデリングを行い、
プレビューで確認を取ることで、より確実で容易な形で意思の疎通を図ることが可能になってい
る。3Dモデルでの意思疎通は、模型での意思疎通と同様に、建築を専門としないクライアント
との意識の共有化や、現場との施工検討も行いやすくしており、大きなメリットとなっている。
特に、パラメトリックモデリングを気軽に使用できるようになったことは大きく、施工図を起
こすにあたって必要なデータを比較的容易に提供することが出来るようになった。これによっ
て、什器等についてはかなり作図期間を短縮でき、設計・施工期間の短縮に寄与している。
上記のような様々なメリットを感じる一方、3Dモデルを共有しても、なかなか末端の施工者ま
でそのデータを活用できているとは言い難く、設計・施工のマッチングの問題も同時に感じた。
他の物件ではうまくデータを活用できる施工者も出てきており、正に過渡期であるということ
も実感した。この過渡期を越えて、末端まで新しいデータを使うことが出来るようになると、
設計者と施工者の新しい関係がみえてくるのではないかと期待している。
この物件は、年度末にほぼ竣工を迎えるが、今回リニューアルを行った箇所が、手元のデータ
とどういった差異を見せるのか、十数年前に受けた印象とどのような変化があるのか、とても
楽しみに感じている。