建築BIMの時代6 BIMとFMの新たな仕事
2020.03.17
ArchiFuture's Eye 大成建設 猪里孝司
2月初旬、とあるイベントに参加するために横浜の日産本社ビルに行った。写真のような文庫
本を模した冊子が、「ご自由にお持ちください」と随所に置かれていた。日産未来文庫“答え
合わせは、未来で。”という車の自動運転を題材にしたショートショート集である。車の自動
運転が当たり前になった時に、現在の私たちの日々の暮らしがどのように変わるかを、日常生
活の一場面を切り取ることで描写している。なかなか面白い。
3月11日に予定されていた第4回建築BIM推進会議が中止になった。BIM標準ワークフローとガ
イドライン案が提示される予定だったので、大変残念である。このワークフローとガイドライ
ンは、建築の生産や維持管理に関わる人たちがBIMを有効に活用することを目的としている。
しかしこれまでの案を読んでいると、BIMとFMに関係する新たな仕事のヒントがあふれている
ことに気づいた。3つほど挙げてみる。
1.FM用BIMモデルを構築する仕事
建築BIM推進会議の部会やWGでの議論で感じるのは、建築の生産に携わる人たち(受注者側)
と、建築の所有や管理に携わる人たち(発注者側)との、“BIM”という言葉に対する認識の違
いである。誤解を恐れず極端にいうと、受注者側は「正確でさまざまな情報なので、いろいろ
用途に使えて便利です」といい、それを発注者側は「必要でない情報も多く含まれているので、
そのままでは使い勝手が悪い」と思っている。この認識の違いは、BIMモデルの違いと直結す
る。建築生産段階で作成されたBIMモデルは、そのままではFMや維持管理で使えない。何らか
の加工が必要になる。今のところ、プロジェクトベースで担当者が汗を流し、そのすり合わせ
を行っている。BIM標準ワークフローやガイドライン、標準仕様が完成すれば、建築生産段階
で作成されたBIMからFM用BIMモデルを構築することも定型化されるとともに、それが仕事と
して認識されるようになる。その作業を受注者側で行うのか、発注者側で行うのかはこれから
の議論になると思うが、新たな仕事として確立されると思う。
2.BIMモデルの内容を確認し、保証する仕事
建物の維持管理には、図面やリスト類が重要である。維持管理をする人は、それらの情報と実
際の建物と照合し、様々な台帳を作って維持管理で利用している。BIMモデルの情報を維持管
理で活用する際、BIMモデルから必要な情報を取り出し、台帳に読み込むという作業が必要に
なる。JFMAが発行した「ファシリティマネジメントのBIMガイドライン」でもBIMモデルから
台帳をつくれば効率的だと書いている。しかしBIMモデルの情報に欠落や重複があると、正し
い台帳が出来ない。従来の図面やリスト類も不整合や誤記などがあり100%正しくないが、台
帳に再入力する段階で間違いを発見している。以前、施工でBIMを活用している方と話をした
時に、設計が作るBIMモデルが正しいかどうか分からないので、設計のBIMモデルを使わず、
新たに施工用のBIMモデルを作るという話を聞いた。その時は、なんて無駄なことするのだろ
うと思ったが、BIMモデルの信頼性という観点からすると、それも仕方がないのかなとも思う。
実際、出来の悪い設計のBIMモデルもあるだろう。設計から施工、施工から維持管理と主体が
変わる段階で、第三者的にBIMモデルの内容が適正であるかを確認し、保証する仕事が必要で
はないかと思う。
3.BIMモデルをずっと預かる仕事
BIMソフトは毎年更新され、過去のバージョンで作られたデータが新しいバージョンのBIMソ
フトで読み込めないことがある。またコンピュータのハードウェア、ソフトウェア、関連技術
の進歩とその寿命は、建築の寿命と尺度が大きく異なっている。竣工時に納められたBIMモデ
ルを大規模改修の時に利用しようと思っても、読み込むことが出来るBIMソフトがないという
ことも考えられる。建築の所有者がデータを管理し、常にBIMモデルとBIMソフトに注意を払
うというのは現実的ではない。維持管理者の業務とも考えられるが、技術的に困難なこともあ
るだろう。そういった不安を払拭するためには、BIMモデルを預かり、必要な時に必要な情報
を取り出せるようにする仕事があってもいいと思う。データを預かるだけでなくデータの取り
出しや更新履歴の管理をあわせて行うことで、サービスの幅が広がる。BIMモデルは、実体の
建築と対になっていることで初めて価値を持つ。BIMモデルの価値を維持するための一端をこ
の仕事が担うと考えられる。
日産未来文庫のように、分かりやすく未来を描くことは出来ないが、建築のライフサイクルの
未来形から、バックキャスト的に抜けている仕事を考えてみるのも面白いと思う。