驚異の低価格と高性能の実現で広がるセンサリング
技術の応用領域<DJI JAPAN>
2020.03.18
自動車の自動運転をはじめとして、建築分野でもさまざまな応用が期待されるセンサリングの
技術。特にレーザー光を使い物体までの距離や物体表面の反射率を測定できるLiDAR(ライ
ダー)は、高精度な検知で注目されているが、高価格なことが、利用や研究段階での適用に大
きな障壁となっていた。
そうした中で世界的なドローンメーカーとして知られるDJIは、独自の非反復走査パターンで
スキャンできるハイブリッド型LiDARを自社開発し、さらに自社工場で生産を行うことで従来
の約1/10という破格の低価格を実現した高精度・高品質のLiDARセンサー「Livox」をリリー
スし、販売を本格的に開始。
高い性能を確保しながら、圧倒的な低価格を実現した開発の経緯や製品の特長について、
DJI JAPANの蒋氏と万氏に伺った。
DJIグループの強みを最大限に活かしたLivoxの開発
一般的な空撮用から産業用のドローンをはじめ、世界規模のロボット大会「DJI RoboMaster」
を手掛けるなど、多方面へのビジネスを展開しているDJI。加えて、レーザー光を照射してター
ゲットまでの距離を測定するLiDARでのセンサーに注力し「Livox」のラインナップを発表し、
SB C&Sが販売している。
Livoxの開発には、DJIグループの強みが惜しみなく注がれている。まずは、ドローンで培って
きた技術力が挙げられる。「プロペラを回すモーターを高い精度で常に安定して動作させるた
めには、高度な技術が必要です。ドローンは航空産業用品であるため、精密であることはもち
ろん、安定して供給するノウハウを持つことで高い信頼を得てきました」とLiDAR事業部ディ
レクターの蒋 力氏は語る。
LiDARには可動部品が組み込まれるため、「何をどう回すのかという高度な設計ノウハウが必
要で、モーターの技術は不可欠です」。
また、DJIグループがスウェーデンのカメラメーカーのHASSELBLADを傘下に収めていること
も、Livoxの開発に活きている。「DJIのモーターの開発技術力、HASSELBLADのレンズの開発
技術力が活かされています。このように機械設計の固定部分と、光学設計の回転部分を組み合
わせる方式は、我々にしかできません」と蒋氏は強調する。LiDARという用語は光(light)と
レーダー(radar)をかけ合わせた造語。対象物にレーザー光を照射し、反射してくる点群情
報を処理することでターゲットまでの距離を測定する測量方法を指す。電波を使って測定する
レーダーに対して、LiDARはレーザー光を使って測定するため、光を扱うレンズや光学設計が
重要になるのである。
破格の低価格の実現が広げるセンサリングのさまざまな活用シーン
後述するが、センサリングの技術には高い将来性があり、その活用が期待されている。しかし、
センサーの価格が高額だったため、各業界で導入があまり進んでいなかったのが現状だ。
Livoxの最大の特長は、価格にある。税別価格で「Mid-40」は70,445円、「Horizon」で
90,000円。100,000円を切る価格は既存製品に比べると、なんと約1/10という破格の低価格
で、インパクトは相当に大きいのだ。「自社で一貫した量産体制を整えたことで、高性能であ
りながら低単価での製品化を実現しました。製造のプロセスで何か問題が生じても、原因を分
析しフィードバックしやすいのが自社内で完結していることのメリットです」と蒋氏は語る。
「Mid-40」は2018年12月、「Horizon」は今年の1月16日にリリースしたばかりだが、製造
ラインでは1ライン1日に300台を製造することが可能な体制を整え、信頼性のテストだけでも
これまでに各業界の応用に対応できるよう、複数のテスト項目を設け、数千ピースをテストの
ために破壊して信頼性も高めてきたという。
「もともとLiDAR自体の価格が、あまりに高すぎました。データを収集するセンサーは、あら
ゆるサービスを組むための第一歩です。後段の処理のアルゴリズム、ライブラリーのリソース
などが世の中になかったのは、LiDARの導入のハードルが高かったため。Livoxは価格のストッ
パーを外したので、さまざまな企業で導入してチャレンジしやすいでしょう。ここから応用し
て出てくるアイデアに大いに期待しています」と蒋氏。しかもLivoxはコンパクトであるため
ユーザーは既存の製品やシステムに容易に組み込むことができ、多くの分野で活用されること
が期待されている。数台のLivoxを同時に使う場合は、データを同期するためのハブなどもすで
に用意されている。コストだけでなく、手間も省略できることは導入のハードルをさらに下げ
ることになるだろう。
Livoxは自動運転での活用が最も注目されているが、建築業界でもさまざまな使用が想定され
ている。既存の建物のデータを即座に得られることは、その1つ。スキャンした高い精度の立
体的なデータは、リアルタイムで視点を変えながら見ることができ、VRと組み合わせるなどそ
の先の活用方法も実用段階に入っているという。また、LiDARは可視光線がないところでも使
え、瞬時に距離情報が出るため、夜間や人の入りにくい条件下での測量にも役立つ。建物の運
用やメンテナンスでも、反射率の違いを読み取ることができる特性を利用し、ひび割れや水漏
れ個所などの特定に役立てることが想定されている。「建設現場では、トラックや重機の運転
や工事計画の立案に役立つことでしょう。また、監視カメラにLivoxを付け加えて反射率や距
離情報を取得することで、セキュリティのサービスを高めるようなことも検討されています」
と蒋氏。データをスムーズに取り込み展開できるソフトウェアの出現によっても、さらに活用
法は広がるだろう。
高精度で高品質なデータが実現する計り知れない可能性
Livoxは、測域センサーに「非反復走査パターン」を採用している。従来のLiDARセンサーで使
用されている反復リニア走査パターンでは、水平方向にのみレーザーを照射する。そのため、
描写される線と線の間は見えないままとなる。しかしLivoxでは、プリズムを回転させながら
花びらの形のように周辺をスキャンしていく。「LiDARが同じ領域内を非反復操作するので、
スキャンの密度が高まります。計測する時間が増加するにつれて、描写密度はほぼ100%まで
達します」とLiDAR事業部の万 佳奇氏は説明する。「人の目では反復リニア走査パターンの
スキャンでも輪郭から脳内で補正されますが、コンピュータでは元データがなければ何も計算
できません。または想像してつくり出すために、データの演算の難易度が大幅に増加してしま
います」。
Livoxのもう1つの大きな特長は、距離とは別次元のデータを多く得られることである。「出力
したレーザーは、散乱などにより100%の状態で戻ってくるわけではありません。Livoxでは
感度よく情報を受け取り、ターゲットの物質による反射率の違いを可視化できるのです」と
万氏。例えば、道路に置かれたペットボトルやライン、トレーラーの側面にあしらわれた絵柄
などが鮮明に描写される。
これらの確かな技術に支えられているLivoxは、測定距離や視野角などのスペックによって複
数の製品がラインナップされている。エントリーモデルの「Mid-40」の水平視野角は38.4°で、
2代目となる「Horizon」で81.7°。回すLiDARの数は「Mid-40」では1本、「Horizon」は6本
という違いはあるが、どちらも約260m先まで測定できる。また、自動車に取り付ける場合な
どで遠くを測定したいという要望に応じて、「Tele-15」では視野角15°で約500m先まで
LiDARを飛ばすことができる。ほかの方式では測定距離が約100mであることと比べると、大
きな性能差があることがわかる。「いかにLiDARを遠くに集中して送り、受け取るか。これも
当社の光学設計の技術力です」と万氏は繰り返して強調する。
性能面、コスト、信頼性のバランスが高次元で取れたLivoxの可能性には、計り知れないものが
ある。「自分の目とは違う世界の見方ができるのは、とても刺激的で新鮮です。私自身も、応
用できるイメージを膨らませています」と蒋氏は熱意を持って語る。Livoxの利用を通して、
さらなる技術革新と新しい世界が、ごく近い将来に得られるだろう。
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※SB C&Sの「Livox」担当セクションのメールアドレスです