ハイクオリティCG/VRが生み出す施工の生産性向上と新たなメニュー<清水建設/Unity>
2020.12.21
建築ビジュアライゼーションのインタラクティブコンテンツを新築工事の施工の初期段階から
導入することで、もの決めのプロセスなどを効率的に進め、生産性向上を図る。清水建設が施
工を請け負った東京・神谷町のオフィスビル新築工事では、まさにこれが実践された。
清水建設はユニティ・テクノロジーズ・ジャパンにコンテンツ制作を依頼したというが、その
狙いはどこにあったのか。さらに、VRも用いながら進められたというプロセスでは、どのよう
な効果があったのか。現場で工事を統括した清水建設 東京支店建築第三部の工事長である、
松本真一氏に話を伺った。
もの決めの効率化を実現するビジュアライゼーションコンテンツ
清水建設 東京支店建築第三部の工事長である松本真一氏は建設業界内でのデジタル化による
生産性の向上に強い関心を持ち、施工段階で実用的なソリューションを取り入れたいと考えて
いたという。その中で、現場管理責任者を担当することとなった。東京都港区神谷町のオフィ
スビル新築プロジェクトで、建築ビジュアライゼーションを施工の初期段階から活用して、生
産性の向上を図ることを検討。そこで当時の社内ICT推進のキーマンだった人から勧められた
のが、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン(以下、UTJ)であった。
松本氏は「Unityの技術が現場にマッチングするかは、最初はわかりませんでしたが、UTJの
銀座オフィスに赴いて、実際に何ができるのかという説明を受け、目指すイメージを共有でき
ました」と振り返る。UTJでは、建築・建設向けに同社の銀座オフィスを再現したデモコンテ
ンツ「Unity Japan Office プロジェクト」を2019年にリリースしていた。これは、Unityで制
作したフォトリアリスティックなビジュアライゼーションコンテンツで、オフィスをデジタル
で完全再現したもの。松本氏は「体験の質が、これまでのVRとは異次元のクオリティであると
感じました」と振り返る。また松本氏は、精緻な表現だけでなく、さまざまなパラメーターを
変更すると、リアルタイムに内装デザインのパターンが可視化できることに注目した。
「施工の初期段階で関わる、もの決めの効率化が入り口となりました。設計段階のパースは完
成図ではなく、あくまでイメージであることが多いと思います。下地の様子や仕上げの質感を
伴う現実的な姿を設計者やクライアントと共有できれば、意思決定がスムーズに進み、完成し
たときとのギャップを埋めることができるのではないかと考えました」と語る。その際には、
VRでデジタルコンテンツを体感できることも、Unity導入の大きな後押しになったという。
多数の関係者の意見調整と意思決定が格段に向上
UTJとの協働がスタートしたのは、2019年11月。すでにオフィスビルプロジェクトは設備まで
含めた各種設計は終了しており、現場では鉄骨の建方が始まっていた。ビルの意匠設計を担当
する三菱地所設計の作成したSketchUpのデータやAutoCADの各種図面データをはじめ、清水
建設が作成した、建築設備3次元CADであるRebroのデータ、製作図、素材の情報などを指示
書とともにUTJに渡し、UTJはUnity開発パートナーである積木製作とともにビジュアライゼー
ションコンテンツの制作を進めた。積木製作の小田桐貴司氏は「まだ竣工していない、これほ
ど大きな規模の建物をゼロから最後まで書き上げることは、初めての経験でした」と振り返る。
最初はラフなCGデータの制作から始めて、途中でハイクオリティのレンダリング技術に切り
替えていったため、検証しながらの進捗でもあった。UTJの竹内一生氏も「どんどん進む工事
と平行し、現場に合わせて修正を続けていく、模索しながらのチャレンジでした」と語る。
そして、ビジュアライゼーションコンテンツは、もの決めの過程で重要な役割を果たすように
なる。松本氏は「2次元の図面では読み切れないディテールについて早期に設計者と決めるこ
とができした。設計サイドでは図面を回覧して承認することが省略され、総合定例会議ではデ
ジタルホワイトボードにモデルを写しながら打ち合わせを行いました。画面にて打合せした内
容をそのままスクリーンショットしたものが議事録の代わりとなります。サンプルを取り寄せ
る種類や量を絞ることが実現でき、この現場ではサンプルボードを作っていません。限られた
時間の中で仕上げのパターンを変更しながら検討できるとともに、意匠と設備、構造の関連す
る納まりも一気に検討できました」と成果を語る。
すべての納まりを明らかにしてから施工に進むことができる。「例えば、壁の塗装の塗り分け
や目地の納まりなども、決定した時点のキャプチャを業者に渡すことで、そのまま指示書にな
りました」という。実際に検討した個所は、エントランスホール天井面のルーバーの配置、内
外装材のパネルのサイズ、手すりの高さ、開口部周りや吊り階段のおさまり、共有部の仕上げ
など多岐にわたる。特にエントランスホール天井面のルーバーの配置の決定の際は、ランダム
な配置を高いクオリティで予算内に実現するために、200パターン近くのデータを作成し、
大きな効果を発揮した。
VRの活用で得たメリットと今後の可能性
また、今回制作したビジュアライゼーションコンテンツはウォークスルーとVRを切り替えて体
験することもできた。今回の現場では、関係者がVRでリアルタイムに形状や収まりの検討、仕
上げ材の比較などを行ったが、オフィスのテナント誘致活動でも力を発揮したという。約25の
テナント候補者で延べ200人を超える人にヘッドセットを装着してもらい、VR体験を実施。
「エントランスから入り、基準階を見てもらうモデルツアーのルートを設定しました。また、
テナント部は入出時の材料ロスをなくすため、OAフロアの状態で引き渡すこととしたのですが、
仕上げの状態をVRで確認してもらいました。形状が複雑な場所ではどう見えるのか、平面図や
立面図だけではなかなか伝わないところを、VRで見上げたり見下げたりすることで具体的な
イメージを把握できたようです」と松本氏はいう。
今回のプロジェクトを通しての効率化について、松本氏は「初めてのケースで定量化は難しい
が、20%に近い生産性の向上は図れたのではないか」とみる。また、今回の取り組みに対する
社内的評価も高いという。
「我々の施工管理の日常にVRが入ってくれば、意思決定の確度やスピードは変わるでしょう。
仕上げの種類や張り方を複数のパターンで見て、総合定例で決まっていけば、さらに効率的に
なるはずです。ただ、ものを決める際にVRを活用するかはゼロか100ではなく、VRを使うスケ
ジュールを事前に組み込みつつ、7割はVRで検証して3割は実物で検討する、というようにバラ
ンスを取りながら進めることになるのではないかと思います」と語る。また、リノベーション
や改修、大規模修繕などは見た目のウエイトが高いので、リアルな仕上げが瞬時に現れて没入
できるVRは効果を発揮すると感じています」ともいう。
さらに新しいサービスメニューとして、「テナントのVR誘致を提案しクライアントの事業収支
向上に寄与ができるのでは。直近の提案は間仕切りや什器レイアウトなどのハードのみである
が、今後はオンラインとオフラインが混合した働き方が当たり前の中で、安心して効率よく働
くことができる環境づくりをハードとソフトを交えて提案したい」と松本氏の発想は広がる。
UTJの竹内氏はそれに応えて「やってみたい、という声に応え、バックアップする体制が私た
ちにはあります。今回も、プロジェクトで得られた要望やノウハウをフィードバックしていき
ますし、これからも建築で使われている情報をうまく扱えるプラットフォームを整えていきた
いと思います」と語る。常にアップデートする技術を取り入れ、対応するフィールドを広げる
Unityへの期待は、今後建設業界でもさらに高まっていくだろう。
「Unity」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。