スキルは、隣の芝生で使ってなんぼや
2015.10.20
ArchiFuture's Eye ARX建築研究所 松家 克
哲学者である鷲田清一氏が連載の朝日新聞「折々のことば」欄に、【「スキルと呼ばれるもの
は、隣の芝生に行って発揮されなきゃ実はダメなんじゃないか。(小山田徹:京都市立芸術大
学教授)」「アーティストがアートの分野で突きつめた表現をするのはあたりまえ。異なった
分野に出かけていって、アートの分野で培った技をそこに翻訳し、活用できてはじめてそれは
スキルとなる。アーティストとは隣の芝生に行けるパスポートを持っている人のことだ、とこ
の美術家は言う。宮城県女川町で試みた「対話工房」での発言。これは博士号についてもいえ
ること。(鷲田清一氏)」】とあった。
アーキテクトにも同じことがいえる。身につけたスキルが新プロジェクトの参加へのパスポー
トとなり得る。反面、設計や施工関連でのコンピテーショナルスキルを短期間で使いこなせる
ようになるのは至難の業だ。ましてや、初期のころのCADのスキルと異なりBIMや情報系のス
キルは多岐に亘り、個人での全スキルの習得には、困難を伴う。チームのパワーアップを図る
ためには、自ずとスキルごとの役割分担が重要となる。一つでも特異なスキルを持ち、これを
パスポートとし、他の分野が得意な人とのコラボに臨み大きな成果につなげることが不可分で
あり、チームでのもの創りの基盤となる。故に、コンピテーションに関するサポート体制構築
の動きも見られ、今後の展開に期待をしたい。併せ、BIGデータの管理や小事務所のサポート
方法などをどうすればよいのか、課題も見えてきている。
時を同じくして、周辺の設計環境には大きな変化が見られる。身近な設備のエンジニアが、蓼
科に移り住んだ。20年以上前に知人の設計者が蓼科に住み、東京にバイクや車で通い続け業務
をこなしていた。いわゆる、遠距離通勤であった。蓼科の環境とともに自然に囲まれた生活に
羨ましさもあった。今回の移住は、この形態とは異なり、遠距離通勤を伴わないテレワーク的
な業務形態を考えているようだ。私の事務所のARXでも構造設計や設備設計を青森や熊本、石
川に居を持つエンジニア事務所と協同する機会が増えつつある。これもICTなどの環境とスキル
が整った結果だと言え、多様なスキルを持つ遠方の人ともコラボが可能となり、チームの主要
な構成メンバーともなり得るといえる。大量なデータが、無料で送れ、遠方とのCADデータの
やりとりやスカイプなども通常化したためでもある。これに併せ、ICT関連の守秘義務対応や
情報漏洩などへの対策が今後は、更に重要となるだろう。
隣や遠方の芝生に出かけずともスキルをパスポートとして、ICTなどによってプロジェクトの
参加が認められ、テレワークでスキルを発揮する。英語が得意なので英語教師ではなく、この
スキルをパスポートとし、社会の中で特異な分野でこの英語力を使って活躍することを目指し
てみるのは、どうだろうか。