Archicadで多彩なデザインを生み出し、
さらなる発想の創出へ~後編<シーラカンスK&H>
2021.03.15
BIM設計が拓いた新しい世界
「こうした経緯を経て、現在では当社のほとんどのプロジェクトが、Archicad中心のBIMを活
用した設計で進められています」。そう語るのは、BIMやICTツールによる取り組みを同社で
牽引する奥村禎三氏である。
「これまではArchicadの運用も、3次元スタディやCGパース制作、解析ツールとの連携などに
よる利用が比較的に多かったと思います。しかし、近年はBIM設計の核として、そのフィール
ドそのものが大きく広がっています」。使用するツールに関してもRhinocerosなどの3Dモデ
リングソフトなどをArchicadと連携させて、より自由度の高い3次元設計を行っているという。
「加えて、プレゼンテーションなどではBIMxのウォークスルーをはじめ、高度なビジュアラ
イゼーションツールTwinmotionを活用し、ムービーや3Dモデルによる提案や打ち合わせを行
うようになっています。昨今はコロナ禍の影響もあり、BIMcloudでチームワーク機能を使い
遠隔から複数人でプロジェクトを進めており、slackなどを活用し、社内環境はほぼクラウド化
されています」。
このように進化し続ける同社が目指すBIM設計はどのようなものか。同社独自のBIM活用手法
を奥村氏にいくつか挙げてもらった。「では、意匠設計の立場から3つほど紹介しましょう。
まず学校建築のプロジェクトで用いた、スタディブロックのBIM化の事例です」。スタディブ
ロックとは、同社が小学校などのプロジェクトで検討段階の初期に使うスタディ模型ツール。
教室や廊下、体育館など、用途や大きさで異なるブロックを積み重ねてスタディするもので、
比較的モジュールが決まった学校建築などで有効だ。一方、Archicadのゾーンツールは、この
スタディブロックによく似たデジタルツール。言わばBIM化したスタディブロックなのである。
「この小学校プロジェクトでは、まずスタディブロックで棟配置など大枠の形を作って方向性
を絞りこみ、その上で、ゾーンツールで再検討していきました。これにより、多数の案をス
ピーディに発展することができたわけです。最終的にはそこへ構造なども入れて詳細度を上げ
ていきました」。しかも、ゾーンと連動した面積表の作成も容易なので、各検討案にリアルタ
イムで面積表を発行。レギュレーションへの適合を確認しながらスタディできた、と奥村氏は
語る。「ゾーンはArchicadの基本機能の一つですが、スタディブロックとの親和性が非常に高
く、BIM以前のアナログな設計とBIM以降のデジタル設計を、シームレスに繋ぐ役割を果たし
てくれました」。
2つ目の事例として奥村氏が取り上げたのは、BIMを利用し非常に短期間でデザイン検討と形状
コントロールを行った、ある図書館のプロポーザル案件である。3D曲面の屋根形状を持つ難度
の高いデザイン案を短期間で仕上げた事例だ。「この建物は涙滴型の平屋で、平面的に楕円形
のワンルーム空間に書架が並ぶというものです。平面だけでなく立体的にも3D曲面の屋根形状
を持たせた案でした。この時は平面計画に加え、屋根の3D曲面も検討が必要で、1週間でプレ
ゼンまで仕上げなければなりませんでした」。
この難題に対し、奥村氏は屋根をRhinocerosで、敷地との関係や平面計画をArchicadで検討し、
Twinmotion上で統合してプレゼンテーションした。「適材適所でツールを使い分け、短期間
で複雑な形状の検討プレゼンが実現できました。この案件は実際に最優秀候補に選定され、
現在プロジェクトが進められています。そこではパラメトリックデザインツールである
GrasshopperとArchicadをLive-connectionで連動させてより詳細な検討を進めています」。
さらなるクリエイティブな発想を求めて
現在、同社のBIM設計への取り組みはさらに進んでいる。「最後に紹介するのは現在進行中の
プロジェクトで、大学キャンパスを約1万㎡の新しい建物へ移転させようという試みです。私
たちはここで、実施設計段階におけるArchicadの本格的な運用を開始し、BIMモデルの実施設
計図化などにも取り組みました」と奥村氏。
奥村氏によれば、3Dモデルは構造設計者からのSTBデータなどを利用して意匠モデルだけでは
なく、構造も含めて不整合のない3Dモデルを短期間で作成。さらにArchicadのプロパティマ
ネージャーで、各部屋の仕上情報や、建具や階段の情報などを要素ごとに付与した。これらは
3Dモデルの変更に応じ動的に変更がかかるので修正ミスによる不整合を防ぐことができた。
図面化の際には、関数を使った条件分岐などを用いてモデルの生のデータをそのまま利用する
のではなく、人が見たときに読みやすいように編集・表示することで、実施設計図として図面
化された時も理解しやすい情報としている。
「ここでは実施設計用に100種類程度のプロパティを設定し、仕上表、平面図、立面図、平面
詳細図、建具表などの基本図面及び一部の詳細図をBIM化することで、図面間の整合性を高め、
また図面作成の工程も大幅に効率化されました」。
BIMモデルを元にした図面作成は一つのモデルからいろいろな情報や図面に切り出すだけなの
で、モデルさえ仕上がれば実施設計図書の作成は大きく効率化できるという。「Archicadの表
現の上書き機能で抽出した情報を、視覚的に強調表示しキープランなどを作っています。例え
ば、一般平面図を学部や所属ごとに色分けし、平面詳細図ではよりスケールを上げて詳細な情
報を表示。また、電気設計者から照度設定をいただき設計照度を色分けすれば、照明デザイ
ナーにも有効に使ってもらえます」。設計業務ではさまざまな関係者にそれぞれ必要な情報を
ピンポイントで渡す必要が多々あるが、一つの図面から多様な情報や図面を切り出せるBIMモ
デルは、そこでも有効に使えるのだ。
このように着々と成果を上げ続けるシーラカンスK&HのBIM設計の取り組みについて、まとめ
を代表の堀場氏に語っていただいた。
「BIM設計を進化させていく中で、設計スタイルの変化とメリットを感じています。例えば効
率化については、最近では2割程度を削減できている実感があります。また、設計者にとって
も、何か新しいものを創りだしたい時、コンピュテーションの活用は極めて有効です。もちろ
ん自分自身の発想も重要ですが、さらに“その発想を超えた何か”をコンピュータの力も借りて
見つけていきたいと思います」と意欲的に語る。
「Archicad」の詳しい情報は、こちらのWebサイトで。