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コラム

【BIMの話】文系理系アキバ系

2021.03.18

パラメトリック・ボイス                竹中工務店 石澤 宰


今回にてArchiFuture Webにおける私のコラムが50本目と相成りました。気づけばもう6年
近くにわたって執筆の場をいただいており、こんな一般会社員に何かを書く場をいただいてい
ることお読みくださる方々がいらっしゃることは感謝に絶えません。ありがとうございます。

50回記念企画的なものを勝手に実践しようかと考えていたのですが、あろうことか
丹野貴一郎さんに振って頂いたテーマを完全にスルーしていたことに気が付きました。建築情
報学会チャンネル
で盛り上がり、丹野さんの方でも紙幅を割いて丁寧に振ってくださったの
に……すみません、くまクマ熊ベアーの前にやることがありました。というわけで今回は建築
ITの裾野を広げるには、というテーマを引き継いで考えていきたいと思います。

丹野さんの前振りに書いていただいたことは事実で、私は大学受験当時、文系の人間でした。
その後建築を志すに至って数III・Cの勉強はしましたが、物理化学はかなり壊滅的な状態でし
た。結果的に私の通った慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)が学際的な教育を標榜し
ていたことが幸いし、学部の中でそのようにコースを選択すれば足りました。一級建築士試験
こそ受験に至るまで少し(そして合格するまでにさらに)年数を要したものの、自分でも文系
キャリアがベースであることをあまり意識せずに実務に取り組んできています。

以前にも書かせていただいたのですがSFCは「3つの言語」という概念を標榜していました。
自然言語・人工言語・デザイン言語を身に着け操るべし、というコンセプトは当時の私に大き
く影響しましたし、今でも考え方の根底に近い部分にあります。

理系の人の方が設計やプログラミングが得意か、という話は、「理系の方がオタクが多いか」
や「若手の方がデジタルに強いか」、「男性の方が失恋を引きずるか」などのようなステレオ
タイプ化かもしれません。そういう傾向を見たことがある人が多いとは言えても、統計的にそ
うだ、とか、だからあなたもそうでしょう、というのは危険です。

ご自身で書いたことのある方にはピンとくると思われますが、プログラムもある側面では純然
たる文章です。書く力は読む力に伴うので、人のプログラムをたくさん読むと上達が早くなる
けれども、やはりたくさん書いた人の勝ちです。大量の文章を書き続けられる人とそうでない
人がいます。気の利いた言い回しができる人とそうでない人がいます。その点で、文をどう制
御するかという力はプログラムにおいて本質的で、その点ではプログラムは文章力と深く関係
しています。

一方で、プログラムで私たちがコンピュータにさせたいことを実現するには式と変数が必要で
す。式変形ができるか、論理式を混乱せずに扱えるかなどはある程度数学的な力を求められる
部分があります。何よりも、そもそも扱う式自体を十分に理解していないと出てきた結果が
チェックできません。これは高校の数学などで習う「極値を探す」「範囲を絞る」「いくつか
の値で実験する」などがまさにそれです。

文系の人は数式を見るとアレルギー反応を起こす、と思っている人も中にはいますが、それも
上記のステレオタイプの類でしょう。プログラムを書いて経済学や文学、社会学の研究をする
人はたくさんいます。単純化の魔力に取り憑かれるな、と言ったのは確か岡本太郎だったと思
います(思うのですが原典が辿れない……)。文系の人は数学が苦手理系の人は文章が苦手
どちらもほとんどただの言葉遊びです。

振り返れば、採用する企業の側こそ、どんな能力を欲しているか明確にしていない部分も多く
あります。「文系」「理系」というカテゴリーが求人の中で有用とみなされてしまうとしたら
そのくらいの解像度でしかjob descriptionを考えていないせいなのかもしれません。終身雇用
制の長かった企業では多かれ少なかれ社員を「育て上げる」という考え方が強く、そこにある
哲学もまた真なりではあるのですが、多様性の時代にそれをどうアップデートしてゆくかはか
なり頭を使う問題です。

成功者のエピソードには、意外なキャリアを積んできた人が案外多くいます。人生何事も無駄
にはならない、という人生訓もよく聞きます。たぶん、とくに建設業とか大企業のような職務
があまり流動しない界隈に住んでいる人間が思うよりもずっと、人はいろいろなことを糧にで
きるし、思いもよらない意外な人材もたくさん存在するものです。そういう人に出会うに
は……これはもう、とにかくたくさんの人に会ってみる意外はなさそうです。

過去にも何度かドラクエを引き合いに出したような気がしますがお付き合いください。どんな
プレイヤーでも、4人パーティを編成するときに全員武闘家にはしないはずなのです。通常は
戦闘メンバー、攻撃魔法メンバー、回復魔法メンバーなどとある程度スキルを分散して育成す
る。そうでないとある特定の敵で総倒れして全滅になりかねない。これは生物の生存戦略だっ
てそうです。

そうとわかっているならチーム編成も採用もきっと同じこと。個々の能力値の強化とは別に、
限られたパーティに多様なジョブ属性がほしい。現実世界の多様性のパラメータはすばやさや
魔法だけではありません。なんでもパラメータになり得ます。それをパーティの能力とみなせ
るか。強みとして戦闘やイベントで活かせるか。全員レベル99なら何でもいいですが現実世
界のパーティには給料を払わなければならないので悠長にレベル上げなどやっていられません。

私の所属する会社に先日、施工にかかわる人材の中でもコンピュテーショナルな発想をもつ
人々のチームができました。その中の人とは普段からよく会話するのですが、「会社の中に自
分みたいな人が他にいるとは思わなかった」とよく言い合います。そんなものです。

ツールだってスキルだって、人に実装されていなければなんにもなりません。ツールを組み合
わせたら面白い、というのは、人の中や人と人の掛け算で生まれることです。新しいツールを
使いながら、実務につねに触れながら、その話を人とすると、会話を通じてまた意外なことを
知る。その冒険譚は、面白いに決まっています。

そのような出会いを、このコラムからも得られていることは幸甚です。これからもよろしく
お願いいたします。何かお気づきのことなどありましたら、どこでもお気軽にお声掛けくだ
さい。
 

石澤 宰 氏

竹中工務店 設計本部 アドバンストデザイン部 コンピュテーショナルデザイングループ長 / 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 特任准教授