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コラム

SFは建築とコンピュータの未来を予測するか

2015.11.05

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

池田先生のコラムに触発されて、「建築の解体」を本棚から取り出した。学生時代、難解さに
読み通せなかった記憶はあったが、56ページで挫折していた自分に情けなさを通り越して、
笑うしかなかった。建築情報学には大いに興味がある。気を取り直して、40年後の世界から
読んでみようと思う。
 
「建築の解体」の隣に「電脳都市」があった。たまたま、ただ判型が同じいう理由でこの2冊
が隣り合っていた。こちらはコンピュータの未来を垣間見ることで、コンピュータの「今」と
これからを考えてみようという本だ。未来を垣間見る題材はSF。「良く出来たSFは、技術的
に完成されたコンピュートピアの世界を垣間見せる」ということで、SFの中でコンピュータが
登場する場面が数多く紹介されている。同時に、SFでの記述に関連する執筆当時のコンピュー
タ技術が解説されている。著者はTRONで有名な坂村健先生。TRONプロジェクトの真っ最中の
1985年5月に発行された。30年前に考えられていた未来を覗くだけでなく、当時のコンピュー
タ技術を知る上でも貴重な資料といえる。
 
現在、コンピュータやデジタル情報と無縁の社会や生活は考えられない。これからもその重要
性が増すことだろう。建築との関係も同様である。このArchiFuture Webには、コンピュータ
やデジタル情報が建築を考え、設計し、造ることに対するインパクトや可能性について、慧眼
の筆者による示唆に富む考えが満載されている。残念ながら、建築を使う時にデジタル情報が
どのような影響を与えるかを示唆してくるものが少ない。今後、デジタル情報が重要性を増す
中で、建築をデジタル情報化しないと社会との接点が希薄になっていくのではないかと危惧し
ている。BIMは建築をデジタル情報化するプラットフォームであり、BIMを推進することは社
会における建築の存在感を増すことにつながると考えている。ただ、未だにどのような効果が
あるか、どのような可能性が拓けるかを具体性を持って示すことができない。
 
「電脳都市」によるとENIACが誕生した1964年以前に、SFにコンピュータのようなものが登
場することはないそうだ。J・P・ホーガンなども「SFがもとになって科学が進展するというこ
とはあり得ない」と言っているそうである。しかし技術や社会の進展は科学ほどハードルが高
くないだろう。凝り固まった頭をほぐしつつ、楽しみとヒントを求めて、久しぶりにSFを手に
取ってみようと思う。

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長