ブルガリア(3)パビリオン制作
2021.12.07
パラメトリック・ボイス 隈研吾建築都市設計事務所 松長知宏
3回目になりますが、引き続き2年前にブルガリアを訪れたときの事をご紹介させていただき
ます。
木を編むというコンセプトで模型作りを始めましたが、最初は前回のコラムでご紹介したよう
なレゴブロック(テクニック)をイメージしていました。穴が開けられてモジュール化した板
を積み重ねて形を作るというもので、ある意味「木の組積造」と言えるかもしれません。ただ、
この方法だとどうしても全体の重量が重たくなりすぎてしまい、板同士を組み合わせるにも鉄
筋のようなマッチョな素材を使わないといけなくなってしまいました。ワークショップ本番で
は学生と共同で組み上げられなければいけないことを考えると、安全でもっと簡単に取り扱え
る仕組みにしなければなりません。
以前もご紹介しましたが、隈事務所にはCGチームの他に模型チームやグラフィックチームなど
専門チームがいます。
事務所内に気軽に相談できる専門家がいることは大きな魅力です。
特にパビリオンのようなシンプルな架構を検討する際は、模型をどのような素材で作るかに
よってもスタディの方向性が変わってくるように思います。今回も素材の扱いに詳しい模型
チームに助けられ「軽やかな木の編み方」にたどり着きました。
隈とも模型を用いた打合せを重ね、デザインの方向性がきまった後はモックアップの制作に進
みます。
1ユニットも組み上げると高さが2m近くになるので、事務所内でのモックアップ制作は断念
し、代わりに事務所でお借りしている倉庫スペースでモックアップ制作を行いました。現地の
素材は流石に輸入できないので、似たような寸法の木材をホームセンターで調達し自分たちの
手でモックアップを作ります。自前でのモックアップ制作は模型とは違いまさに体力勝負のス
タディで、実際に開ける穴の位置や、紐の種類や強度、制作手順を確認します。紐には当初
キャンプ用のパラコードのような丈夫なものを検討していましたが、素材の生っぽさから太め
の麻縄を使うことに決めました。
モックアップでの検証も済み、編み方のシステムが固まったら、3Dモデル上での検証に進み
ます。
ミラノでのプロジェクトでもお世話になったダッソー・システムズさんの最新ソフトを使って、
パラメトリックな3Dモデルを作成しました。テンションがかかる中央の紐がまさに今回のパ
ラメータの肝となる部分で、この紐の長さで全体の形状がきまります。
単純な仕組みですが、高さと奥行きの違いでいろいろな表情が生まれます。
また今回は特別に構造計画研究所さんにご協力いただき、グラスホッパーを用いた構造解析ま
で行うことができました。
さて、ワークショップ本番の2019年10月、ブルガリア建築大学の教室で20名程度の学生と
一緒に木材の加工を始めました。
当初制作日数として5日ほどを想定していましたが、学生たちの理解がとても早く、初日で想
定していたユニットの半数を作り上げることができました。IT系の印象が強かったブルガリア
の学生でしたが、実は工具の扱いも手慣れており、ものすごい速さでユニットが組み上げられ
ていきました。
また、ワークショップ期間中には、ブルガリアが本拠地のカオスグループさんにご協力いただ
き、V-Rayの勉強会も行いました。ここでは学生がリアルタイムでレンダリングを行いながら、
構造計画研究所さんの構造解析を見つつ、実物のユニットに反映させるという面白い試みも実
現できました。手を使って荒っぽい生の素材と格闘しつつ、一方でデジタルツールを使ってレ
イアウトのデザインを検証するというギャップに惹かれました。
隈が講演を行う当日は、隣国セルビアからも大型バスで団体聴講者にきていただけるなどおか
げさまで大変な盛況となりました。
当初はなぜこんな安い素材(Cham、地元の方には馴染みのあるという型枠材)を使うのだろ
うと若干不思議がられていましたが、出来上がったものをみて生々しくて荒っぽいコンピュ
テーショナルの面白さを感じていただけたのではないかと思います。
3回にわたり、2年前の話を長々と書いてしまいましたが、思い返すとまだまだ書き足りなく
感じます。予算がない中多くの方のご協力あってのプロジェクトでした。本当にありがとうご
ざいました。
Chamの完成後の写真はこちらです。