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コラム

続BIMで儲ける -利己的なBIMと利他的なBIM-

2022.02.17

パラメトリック・ボイス                   熊本大学 大西 康伸

昨年2月9日のコラムで、BIMで儲けることの思案について書いた。結局その時はBIMで儲け
るという「それ」についての答えは見つからなかたのだか、最近、またもや「それ」につい
て考える機会を図らずしも得てしまった。
誰もが悩み考えた挙句、藁をもすがる思いでどうにか答えを得ようとする、BIMにまつわる
「それ」。実は「それ」についてたまに耳にすることはあたのだが、さほど気には留めてい
なかった。BIMに関係する者としての生存本能からだろうか、無意識に避けていたのかもしれ
ない。

「それ」については、鳥取県米子の地場ゼネコンN氏と境港に向かう車中で、議論というか一
方的に告白されたのだが、その訪問がきっかけで、何かやりましょうよ、という話になった。
後日、オンライン会議で研究室の最近の取り組みを紹介したのだが、その質疑の中で「それ」
は突然やって来た。営業担当のX氏から、お客さんにBIMのメリットを説明したいのだが何と
言えば良いか、という質問があった。
来た。やはり避けて通ることはできない。何か答えねばと思い、反射的に、BIMには伝えると
いう力がある云々と、その場を取り繕うように声を絞り出した。またやってしまった。幸いと
言ってよいものか、X氏がその回答に納得したかどうかは、ウェブカメラの解像度が低く窺い
知ることはできなかった。

そんなやりとりが終わった後、ふと思い出した話がある。1年半ほど前になるだろうか。ワー
クスペスデザインのイベントがきっかけで知り合た10年来の知人である広告企画会社の若
き社長I氏からBIMて設計している途中でその建物の解体時に発生する建設ごみの量や処分
費が把握できたりしますか、と他愛もない会話の中で質問を受けた。
I氏の会社は広告企画の他に、社会的利益のためにオフスの部を貸し出すことを業務の
としている。なんと社内にキュレータを数名抱え、時にはそこで行われるイベントを自ら企画
する。聞くに、以前企画したあるワークショップで東京で発生したごみの行く末を調べたとこ
ろ、建物の解体により発生した大量の埋め立てごみが年々東京湾を小さくし、その処分費も
年々増加しているという。これ以上ごみの島を増やさないために、自分に何ができるか。これ
がI氏の考えていた事であった。
 

 RC建物の解体の様子

 RC建物の解体の様子


技術的には、ごみの処分方法ごとに建物構成部材の数量を拾いそれに処分費用の単価を掛ける
だけなので、基本は積算や修繕・更新費用の算定と一緒で、そう難しくはない。一方で、設計
している建物が生み出すごみの量を設計者自身が常に把握しそれを少しでも削減する工夫を講
ずれば、ごみの島が生まれるスピードは遅くなる。設計者がその社会的な責任を果たしながら
も、処分費が少なくなるという発注者への直接的なメリットもある。技術的難易度の低さに比
して、その影響力は大きい。
 
再び、「それ」の話をしよう。

現在のところ、多くの企業がBIMを「自社のため、社内での効率化のため」に使っており、そ
の限りにおいてその価値は十分に認識されている。しかし、それでは社員の総数が減り、一人
当たりが担当する案件が増えるばかりである。もちろん、人手不足の時代に必要な人員を少な
くできることは歓迎すべきである。だが、新しい案件獲得のために、BIMやってます、と営業
で言えない件の営業担当者の悩みは、BIMがどちらかと言えば利己的に使われていることを示
している。
80年代にXanado(ザナド)というアクション・ロールプレイング・ゲームが流行っていた
武器にも経験値があるという当時としては斬新な発想で、ひたすら敵を倒して修行する。最終
目的はラスボスのキングドラゴンを倒すことであり、初めから最後までひたすら敵を倒すゲー
ムである。一方、あなたのBIMソフトの経験値がいくら上がっても、間違った目的では何も生
まれない。現実は(昔の)ゲームのように利己的ではだめなのである。
BIMで儲けるとは、すなわち、BIMによって誰かに価値を提供しその対価を受け取る、という
ことである。地球のために何ができるか、どこかで聞いたことのあるフレーズだが、これを自
分ごととして真剣に考え行動する、例えばそんなことが誰かの利益につながり、ひいては自分
の利益につながる。
利己的なBIMから利他的なBIMへ。甘っちょろい考えかもしれないが、そこにBIMで儲けるヒ
ントがある。

大西 康伸 氏

熊本大学 大学院先端科学研究部 教授