マニアックからリアリティーBIMの時代に ~Archi Future 2015
2015.12.15
ArchiFuture's Eye ARX建築研究所 松家 克
今年で8回目の「Archi Future 2015」は、今までで最高の参加者を数え、盛会裏に開催。
今年は、ワールドワイドでホットな欧米の建築デザイン事務所の「BIG」と「SHoP」による
基調講演の反響が大きかった。
「基調講演1」のグーグル本社の設計を手掛ける「BIG」は、初期の4人+7人のパートナーと
27を超える国のメンバーを合せ、コペンハーゲンを中心に320名で構成。Jakob Andreassen氏は、ワシントンDCの国立博物館での「HOT to COLDがテーマのBIG展」を口火とし、BIMに
よるコンセプチュアルデザインのデータ作成から施工データまで、その一貫したデータプラッ
トフォーム利用の状況、公共建築のBIMによる申請の義務化、BIMによるハウジング計画、
南仏の細胞にヒントを得た美術館、人気のスキー場をコンセプトとした廃棄物処理場を中心と
した工業コンプレックスなどを題材にBIMによる設計手法を中心に語られた。この工業コンプ
レックスプロジェクトは、小さなスキー場や緑と林と小湖を付加価値に持ち、CO2排出の意味
をスモークリンクでランドマーク的に可視化することなど、コンピュテーショナルデザインの
有効性が提示された。
「基調講演2」の「SHoP」は、コロンビア大学の卒業生を中心に5人のパートナーとおよそ
200人のメンバーで構成され、世界で活躍中。John D. Cerone氏は、デザインからコンスト
ラクションのコンピュテーショナルデザイン技術の現実的な利用を目的とした事務所であり、
スタイルに拘らずに性能を重視。その結果が美しいと考えていることを紹介された。併せ、
どのような事務所で、ボツワナやケニアでのプロジェクト、設計プロセス、そして、将来像が
語られ、ニューヨークでの活動を中心に、設計段階から施工までを2Dではなく、より精度の
高い3DのBIMプラットフォームで検討する重要性などが提示された。最後に、ニューヨークで
の「SHoP」の集大成とも言えるバークレーセンターでの1万2千枚の金属パネルの設計から施
工までの実践的な事例提示があり、次世代の設計と施工プロセスを見る感があり、印象深いも
のであった。
「BIG」と「SHoP」の両社ともアンケートの結果は大変好評であり、設計と製作から施工へと
つながる実例などは、示唆に富むものであった。
「特別対談」の藤村氏は、ニューヨークのブルームバーグ市長が進めた再開発の例を紐解き、
建築家の参加と合意形成が、何故上手く行われたのか。NYから30年遅くインフラの朽ちる現象
が始まっている日本の現状に、どのように対応すべきなのか。日本でのいくつかのプロジェク
トを事例とし、社会的な視点を含め、行政と関係者の合意形成プロセスなどを中心に語られた。
金田氏が、ものづくりと咬み合わせながら現代の社会分析したレクチャーは、鋭い観察力と視
点が感じられた。小プロジェクトの全てをBIMでやってみたいとの発言も興味深く、情報を持
ち有効利用が出来れば、模型であれ、BIMであれ、重要な情報のマスターモデルといえるので
は、との発言も強く印象に残る。
「パネルディスカッション」は、大手ゼネコンの若手を中心に事例報告とパネルディスカッショ
ンなどがあり、BIM的思考のコンピテーションを踏まえて、各社が独自の展開を見せ始め、次
世代への弾み車が動き、時代が来たとの期待が膨らんだ。BIMにより、現場のプロセスが変化
するのではないかなど、多くの未来予想も語られた。
S-1の「BIMで再生する城下町-Build Live Japan in 杵築-」は、杵築市長と市民代表も同席さ
れ、城下町杵築市の再生への魅力的な提案があった。市では、3DCGなどで市民向けのプレゼ
ンテーションを行い、アンケートも実施。その結果も踏まえ、地域賞が市長から授与された。
優秀賞などのプレゼがあり、杵築市長が、今回の意義について話された。
S-2の「マンション事業のライフサイクル・BIM」は、企画設計から実施、積算、販売用図面、
プレゼなどの流れをデータプラットフォーム化した事例であり、システムの完成度も高く、リ
フォームやリノベーション、自動施工への期待感もある。
S-3の「設備BIMには何ができるか?」は、設備関連部位などに属性を持たせ、実務レベルの
設備BIMを感じさせるものであった。
S-4の「日本初のBIM-FMビジネス」は、BIMによるデータベースを中心にネットワークを組み、
ライフサイクルの見える化が重要であると語られた。
S-5の「コンピュテーショナルデザインの新しいプロフェッション」は、自ら経験した米国の
MITやハーバード大学での教育環境の内容も興味深く、大学の教育者にも聞かせたい内容であっ
た。
S-6の「ロボットが変える新しい建築」は、SHoPの事例とも重なり、示唆に富むものであり、
リアリティーに向けての力強さを感じさせた。
「テクニカルフォーラム」は、今までにない多くの参加数が見られ、会場から人が溢れる状況
もあり、実務的なレベルにBIMが到達したとの実感が、ここでもあった。
最後に、毎年、毎年、参加者の動向が気になるところだが、今年は、BIMなどに具体化や現実
化が見られ、BIMが本格的に稼働を始めた時代が来たとの感が強く、マニアック段階からリア
リティー時代に入ったといえる。
「Archi Future」は、来年もアジアや欧米での情報を広く集め、「Archi Future」のグローバ
ル化やアドバンス講座も視野に入れ、今年以上の魅力あるイベントにするとの強いモチベーショ
ンで、次回の実行委員会をスタートさせたいと考えている。