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コラム

井の中から逃げる蛙になる前に

2022.08.30

パラメトリック・ボイス       SUDARE TECHNOLOGIES 丹野貴一郎

先日、広島工業大学にBuilding Posting System(BPS)のデモンストレーションを見に行っ
てきました。
簡単に説明すると、ロボットの自己位置測定を建物側のセンサーで実装することでロボットの
コストを抑え、様々なロボットの導入ハードルを下げることを目指しており、デモンストレー
ションではBIMとの連携やゲームエンジンによるリアルタイム表示までを行っていました。
「参照:広島工業大学西広島タイムスWEBテレビ新広島TikTok(クリックするとTikTok
へリンクします)


単純に考えると、ロボット側にセンサーを付けて取得した位置はセンサーで取得した膨大な情
報をデジタル側の空間に合わせる必要がありますが、建物側にセンサーを付けた方の場合、ロ
ボットの自己位置のみをプロットすれば良いのでデジタル側の処理が簡単になり、既にある
BIMデータの活用がしやすくなると思います。

開発は同大学建築デザイン学科の杉田洋先生、杉田宗先生と情報工学科の大谷幸三先生が中心
となり、二学部の学生達が協力しながら実装をされていました。
杉田洋先生は、開発の内容もさながら学部学科を横断して学生たちが一つの目的に向かって協
力している姿に最も大きな価値を見出しているように話されていました。

コラムを読んでいる方々には既存の建築技術だけではなく、これまでは異業種とされていた分
野の方々との協業をしている方も多いと思います。
たまたま本コラム執筆中に見学させていただいたXR HOUSE(大和ハウス工業バンダイナム
コ研究所、noiz)でも、業界が違うと使う単位すら違ったりするという話を伺ったところです
が、業界によって常識が違う事は少なくありませんし、特に建築業界は長く閉ざされた業界な
ので外から見ると非常識に思えることがたくさんあります。
これを知らずにうちの常識や慣習に合わせてくれ、となると今後の発展には大きな足かせに
なってしまいます(強めに言うと、井の中の蛙大海を知らずというやつです)。

AECテックをビジネス的な視点で見ると、
・慣習による付随作業が多い
・チームメンバーの不勉強により説明に時間がとられる
・責任者不在で方針が決まらない
・社内都合に時間をとられ協業が進まない
等々、に貴重な時間をとられることでビジネスが成立しにくい側面があるのではないでしょう
か。

まだ“業界の常識”が刷り込まれていない学生時代に他分野同士の協業をする経験は、今後増え
ていくであろう既存分野にカテゴライズされないプロジェクトにとってかけがえのないものに
なると思います。
ただし、今の時代の感覚が全てということはありません。
これまで積み重ねられた物事にはそれなりの理由があるはずなので、そこに興味を持って理解
しなければ、結局“今の時代の井の中”です。

少し感覚的な事を書きすぎましたが自分自身が独立して再認識させられたのは“技術”が“仕事”
になるためには、技術以外の要素を丁寧にやることの重要性でした(天才エンジニアはそんな
ことを考えなくて良いと思いますが…)。
AECテックに希望をもっている方は変なことで嫌いになる前に少し技術以外の部分を丁寧に考
えてみてください。井の中から逃げる蛙になる前に。

丹野 貴一郎 氏

SUDARE TECHNOLOGIES    代表取締役社長