DX人材の発掘と情報教育
2022.09.08
パラメトリック・ボイス 前田建設工業 綱川隆司
夏期休暇に入る少し前でしたが、会社で「DXアセスメントテスト」なるものがほぼ全職員を
対象に実施されました。休暇前の業務が立て込んでいる状況でしたので、あまりに多い設問の
数にうんざりしながら回答しました。調べるとこの手のテスト&ラーニングを手掛けているサ
イトがたくさんあります。DX人材の発掘がどこの企業でも課題のようで、大きく“デジタル”
と“イノベーション”の二つの要素を評価軸に置いているようです。
今後企業がDXを推進していく際にその土壌として社員全体のデジタルスキルのボトムアップ
を図りたいというのは理解できます。イノベーションは難しいですね、知識というより創造力
とかマインドの領域でしょうか。手始めに社員へ求められる知識と能力に関する客観的な評価
を行い、隠れた能力のある人間を発掘すると同時に、そうでない人間に対しても今後スキル
アップに向けたマインドセットを行いたいという意図の様です。
結果は程無く夏期休暇直前に戻ってきました。私の成績は平均以下で4段階の下から2番目の
ランクという実に不名誉な採点結果でした。期待もしてませんでしたがかなりがっかりです。
先の二つの要素のうちデジタル関連のスコアが低い様です。Webテストなのでスキルという
より知識の量を測られたものと思いますが、ここでいうデジタル力は、AI・機械学習、先端
ICT技術、データ分析、Office関連という分類になっていました。「DXでMS-Officeかよ」と
も思いましたが、使い慣れているOffice以外のスコアが壊滅的でしたので「普段と使っている
筋肉が違う」と、ここでは言い訳をしておきます。講評で書かれたコメントは以下の通り。
「次のランクに上がるためには、先端ICT技術がご自身の能力の課題となります。更に能力を
高めるためにIoT、5G、ローコード開発など最新ICT技術についてアンテナを張りながら、ご
自身の業務でどのように活かせるか考えることをしましょう」。あ、ハイ、すいません。これ
は健康指導で「ごはんは10回咀嚼してください」と言われた以上に悩ましいです。
私は意匠設計者なので理系というより文系みたいなものですとおどけることはありますが、高
校の教育課程において文系理系を問わず2022年度より「情報Ⅰ」科目が必修となりました。
ちょうど私の娘がこの春から高校生なので、期末考査の「情報Ⅰ」の問題用紙を見せてもらい
ました。ここでさわりだけご紹介したいと思います。ご承知の通り、期末考査の試験問題は各
高校の教諭が作成なので学校毎のバラつきがある前提で読み進めて下さい。
はじめの知識を問う設問では、「安全のための対策と技術」「情報セキュリティ」について問
われています。
Q:パスワードによる認証に比べ生体認証が優位となる理由?
Q:公開鍵暗号方式の復号方法?
Q:分散型台帳と呼ばれる暗号資産の決裁や送金で用いる基盤技術の名称と情報システムの形
態と特徴?
なんとなく答えが思いつくものはありますが、想像よりかなり難しそうです。
次の設問は「インターネットの仕組み」を問われます。
Q:プロトコルを階層化する理由?
Q:電子メールを受信するプロトコルでPOPに比べIMAPが優位な点?
数ヶ月前までChromeのタブレットしか使わない中学生だったのに、そんなこと解るかなあ。
高校生らしい日常的なSNSにおけるトラブルとか身近な題材もあるにはあるのですが、新しい
科目なので大人向けの内容をそのまま焼き直した感はあります。
ここからはホームページ作成やプログラミングにテーマが及びます。
Webページのサンプル画面を見ながら、HTMLとCSSに関する穴埋め問題へと続きます。内容
は割愛しますが、画面レイアウトの話はそんな大事かなあ。
最後は記述式で思考力を試される内容です。新聞記事を読ませて、後の設問に答える形です。
「メタバース」に関する内容で、フェイスブックが社名を「メタ」に変えて今後メタバースへ
注力する話と、電脳世界と現実世界を行き来するウィリアム・ギブスンのSF小説「ニューロ
マンサー」の話になぞらえて仮想空間について説明が入ります。
Q:「メタバース」とは何か?説明せよ。
Q:「メタバース」で活用される活用分野は?
Q:広まることで私たちの生活がどう変わるのか?
まず「ニューロマンサー」の懐かしさでほっこりします。発表は1984年。ハッカーが“カウ
ボーイ”で舞台が“千葉シティ”ですよ。仮想空間は“マトリックス”ですからね!別な映画作品
のタイトルになってますが。“メタバース”の語源は1992年発表のニール・スティーヴンスン
のサイバーパンク小説「スノウ・クラッシュ」の方らしいですが。
「メタバース」については少し浮かれすぎの感はあり、以前話題になった「セカンドライフ」
の既視感が拭えません。さて私たちの生活を変えるほどのインパクトがあるでしょうか?試験
問題はここまでです。
文科省の偉い人のインタビューを読んでみると、さらに高度な内容は選択科目である「情報
Ⅱ」で学習し、情報システム自体を設計できるレベルを想定しているとのこと。驚きです。し
かしこの大きなビジョンに対して、日本が少しこの領域において出遅れたことに対する若干焦
りのようなものも感じます。たまたまその変化タイミングにあたってしまった学生にはいい迷
惑かもしれません。
私は車のアクセルを踏むときに内燃機関の仕組みを理解する必要は無いと思うのですが、それ
に近いことを深堀りしている気はしました。低スコアの人間のボヤキです。
ちなみに高等学校「情報Ⅰ」の教員研修用教材は公開されています。
また2024年からは大学入試に「情報」が取り込まれるようなので受験産業巻き込んで大きな
動きになりそうです(そういうことか・・・)。