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コラム

BIMと建築プロジェクト・マネジメント

2022.10.06

パラメトリック・ボイス               芝浦工業大学 志手一哉

大学でBIMの教育をする上で筆者が重要だと考えていることは、BIMの初歩的な知識(BIM
ツールを用いたモデリング、集計工程シミュレーションなど)と平行して「プロジェクトマ
ネジメント」の知識に触れることである。具体的にはPMBOK(Project Management Body
of Knowledge:プロジェクトマネジメントの知識体系)の第6版以前に記述されている10の
知識エリアの概要に加え、スコープマネジメントにおけるWBS(Work Breakdown
Structure)法、工程マネジメントにおけるPART/CPM法、コストマネジメントにおけるEVM(Earned Value Management)法の学習である理解まで至らなくともこれらの概念
を知らなければ、BIMは便利と感じることができたとしても「3D/4D/5D」の意味を腑に落ち
て理解することは不可能である。そうしたこともあって筆者は、PMBOKを建築プロジェクト
になぞらえて講義・演習をする「建築プロジェクトマネジメント」をBIM演習の応用科目と平
行して学部3年生に開講している。

ただし、PMBOKに基づいたプロジェクトマネジメントの知識を学ぶだけでは、実際の建築プ
ロジェクトを切り盛りできない。多様な関係者とどのような役割・責任分担をして契約に落と
し込んでいくかという、建築プロジェクトのマネジメントに関する知識が備わっていなければ、
プロジェクトの生産性を向上することが難しいと考えている。BIMを導入したワークフローに
おいても、建築プロジェクトをマネジメントするための知識が欠落していては、プロジェクト
の中でBIMを役立てるイメージを想像しづらい。しかし、このような内容を学部生が学ぶには、
ハードルが高い。

そこで、発注者、設計者、施工者、発注者支援者を目指す大学院生や実務者に読んでいただき
たいとの想いを馳せて、この度「現代の建築プロジェクト・マネジメント」という書籍を彰国
社から共著で上梓させていただいた。目次の詳細は出版社のサイトをご覧いただきたいが、こ
の書籍を通した筆者らのテーマは「建築プロジェクトの発注契約方式とは何なのか」という問
いである。例えば、建築BIM推進会議のワークフローガイドラインで提示された実施
設計2(S4)に位置づけられるコーディネーションあるいは生産設計は、どのような主体者が
どのような役割と責務で関与するのが良いか、それはどのような契約で形づくられていればス
テークホルダーの納得が得られるのか、このような考え方は建築プロジェクトのタイプや性質
によって多様なパターンを考えうるのか、というような問題意識が論点となる。さらに、如何
なる発注契約方式にしてもプロジェクトに対する要求水準(建物に対しても、建物情報に対し
ても)の精密さはプロジェクトの生産性を左右する。それらに対する明快な解を提示できてい
るわけではないが、何某かのヒントを提出させていただいたつもりである。

BIMにはテクニカルな側面と建築社会システム的な側面があり、双方のバランスを保ちながら
推進していくことが肝要である。特に、BIMと発注契約方式の関係は、英米の例を見るまでも
なく密接である。その上で、発注契約方式を安易にパターン化するよりも、様々なオプション
の組み合わせとして考えるのが建設的であると主張したいし、それこそが米国のModel
Element Tableや英国のResponsibility Matrixの意義である。「現代の建築プロジェクト・マ
ネジメント」はBIMを直接の対象としていないが、そうした隠れた意図を感じ取っていただけ
れば、著者の一人として幸甚である。


 

志手 一哉 氏

芝浦工業大学 建築学部  建築学科 教授