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コラム

再び開かれた世界への扉

2022.12.08

ArchiFuture's Eye                  広島工業大学 杉田 宗

ワールドカップでの日本代表の躍進で寝不足気味な日々が続きますが、現在大会が行われてい
るカタールは1993年の「ドーハの悲劇」の舞台となった場所で、日本代表の森保監督はその
時ピッチに立っていた選手の一人なんですね。あと一歩でワールドカップへの出場が叶わな
かった1993年に対し、今大会では強豪のドイツやスペインに勝利し、予選を1位で通過するな
ど世界をにぎわせる存在になっています。また、今大会の代表選手の所属先を見ると、ほとん
どが海外のクラブで彼らが審判や相手選手と英語でやり合っている姿を見ると29年の間に成
し遂げた、日本サッカーの進化を感じことができます。

今回はそんな海外との接点の話。コロナ禍によって、国外どころか国内での移動も規制される
期間が続いていましたがこの秋から杉田宗研究室も徐々に海外との接触が戻りつつあります

一つ目は、2018年から開催している英国ラフバラー大学との国際ワークショップ。以前にも
コラム
で取り上げさせてもらいましたが、2018年と2019年はラフバラー大学を会場に、九州
大学や慶應大学の学生たちと一緒に我々の学生たちも参加してきました。2021年にはオンラ
インで同様のワークショップを開催しましたがいよいよ今年は広島工業大学がホストを務め
ラフバラー大学の学生と教員を招いて5日間のワークショップを実施しました。
 
ワークショップでは20名の参加学生を4つのグループに分け、「移動式の茶室」を考える課題
に取り組みました。上田宗箇流の上田宗篁さんに特別アドバイザーとして協力して頂き、上田
流和風堂の見学や茶道家の視点からのクリティークをお願いしました。ラフバラー大学の学生
たちにとっては、日本の伝統的な文化や建築に触れ、そこで新しい建築を考える濃厚な体験に
なったのではないかと思います。一方、広島工業大学の学生たちにとっては、慣れない英語で
のコミュニケーションに苦労しながら、様々な議論を通してアイデアを形にしていく経験が得
られたように感じます。日本人同士なら、言葉だけで意思疎通ができてしまいますが、英語に
なると勝手が違う。翻訳アプリや画像検索だけじゃなく、スケッチや模型など、使えるものは
何でも使って言葉の壁を越えようとする体験は、こういう機会でこそ得られる特別な刺激にな
るでしょう。

 国際ワークショップの様子

 国際ワークショップの様子


私が一番驚いたのは、広島工業大学の学生たちが最高のホストになっていたことです。ワーク
ショップが始まるまでは、英語の壁に加え、コロナ禍でなかなか行動に移せない環境で大学生
活を送ってきた学生たちが、イギリスからの学生たちをどの様に受け入れるかを心配していま
したが、初日から意気投合し、連日居酒屋や回転寿司に連れていくなど、しっかり日本の文化
を体験させようとしている姿を見てほこりしました。参加者全員が本当に仲良くなた姿や
5日間のワークショップの成果を見て、我々がもっと色々な機会を与えないとだめだと痛感し
ました。

 国際ワークショップの最終講評会

 国際ワークショップの最終講評会


杉田のTwitter
大学のHP
 
また11月にはコロナ開けで初めて海外に出ていく機会もありました毎年韓国の釜山で行わ
れる「釜山建築祭」にて杉田宗研究室のパビリオンを展示するために招待され、大学院生2名
とともに人生初めての韓国へ行ってきました。
 
今年8月に広島で展示したTransitional Pavilionを解体し、部材の組合せ方を変えたり現地で
調達する部材を加えることで、別の形に変化させて再度組み立てる試みでした。杉田宗研究室
にとっては初の海外プロジェクトで、海外へ物を送ることがこんなにも大変なことだと知るこ
ととなりましたがいろいろな方の協力のお陰で無事に現地に送り届けることができました。
また現地で調達した部材に施す加工を効率化するためにいろいろな治具を作って持ち込ん
だのも今回の特徴です。1日の加工作業と、1日の組み立て作業で完成させました。

 Transitional Pavilionの組立て

 Transitional Pavilionの組立て


釜山では、現地の大学生20名程が組み立て作業に協力してくれましたがこの経験がまた非常
に刺激的でした。彼らは作業の手順などの飲み込みが早いだけでなく、自分たちで効率の良い
方法を考えてどんどんと提案してくれました。一度組み立てている我々の方が思考が固く、彼
らの自由な発想に随分と助けられました。

 釜山建築祭にて展示されたTransitional Pavilion

 釜山建築祭にて展示されたTransitional Pavilion


杉田のTwitter

こんな様子で、久しぶりの海外との接点から学ぶ体験が続き、改めて日本の中にこもっていて
はダメだなと思うわけです。特に大学生を含む若い人たちには、今開かれつつある海外に意識
を向けてもらいたい。オンラインの技術によって、繋がり方が多様になった今こそ、リアルに
見たり、リアルに会ったりすることの価値が高まっていると強く感じます。

29年の間に成し遂げた日本サッカーの進化と比べ、日本の建築はどのように変化しているで
しょうか?海外への留学生や海外赴任する機会を見ると随分と減ってきていると思いますし、
海外への意識を持った学生も年々減っているように感じます。どっぷり海外の生活に飛び込む
ことは難しくとも、今回のワークショップやパビリオンの経験のように、小さな接点を積み重
ねていくことなら出来そうな気がします。こういった小さな接点が、大きな変化になることを
信じて次なる海外進出を企んでいます。
 

杉田 宗 氏

広島工業大学 環境学部  建築デザイン学科 准教授