Magazine(マガジン)

コラム

BIMを拡げるために・・・

2023.01.17

パラメトリック・ボイス            安井建築設計事務所 村松弘治

社会を変えるBIMのイメージを持ちませんか?
先日、マロニエBIM設計コンペティションの審査をWebで視聴していたのだが、年々、大きな
進化を遂げていることに驚かされる。多くの提案が、BIM情報の在り方や活用方法を考慮した
上で計画が練り込まれ、またモデル化されている。そしてそれらを短時間に充実した作品にま
とめるスキルを見ていると、幅広く設計者に浸透してきていることを感じる。
参考URLマロニエBIM2022公開審査>(クリックするとYouTubeへリンクします)
このようにBIMは、今や建築設計において一つの重要な『手法』になってきていると思うが、
この『手法』がどんどん重なり、広くつながっていかないと、社会への影響や拡大も限定され
たままであろう。勿論、建築のデータの一つひとつが、まちや都市のデータとつながる状況に
至れば、暮らしにおける合理化を更に促進し、大きな利便性や利益にもつながっていくことは
既知の事実でもある。いま、この礎をしっかり組み立てて、基本となるBIMの裾野の拡大に皆
でトライすることは、とても大きな意義があると思える。というわけで…。
 
建築BIM加速化事業の試み!
昨年暮れに、建築BIMの社会実装の加速を目的として、国交省から『建築BIM加速化事業』へ
の取り組みが発信された。BIMの裾野の拡大が期待できる試みである。当サイトでも紹介され
ている。参考URL国土交通省が国費80億円で建築BIM加速化事業を新たに創設
これまでの経験からも、実プロジェクトで検証できるメリットはとても大きいと感じる。現実
的には、プロセスや運用などはそれぞれの事業者に委ねられることになるのだろうと思うが、
実践したプロセス、プログラムが共有されれば、これまで練り上げられてきたガイドラインな
どのレギュレーションの改善や利活用も一歩前進するのではないかと考える。多くの人、組織、
分野にBIMのメリットと効果を知ってもらい、また、活用する土壌をつくり上げる絶好のきっ
かけと機会でもある。さらに、モデルのつくり方、スキルアップのしかた、設計プロセスへの
組み込み方、ライセンスの可否、役割の検討…など、それぞれに工夫が求められることにもな
るかもしれないが、既にBIMを利用している人にとっても、様々な課題を解決するためのオプ
ションとして戦略的にこの制度を利用することも一考してはいかがか。
 
戦略的に進めると効果がありそう…
うまく進めるためには、「教育と環境づくり」、「運用方法」、「パートナーづくり」、そし
て「BIMの職能と役割」について戦略的思考も必要だろう(下図イメージ参照)。
●教育と環境づくり:講習や教育を通して、教育制度や資格制度への思考、あるいは合理的ソ
 フトやCDE整備、そしてガイドラインの具体的活用などが考えられるが、結果的に、個々の
 デジタライゼーションスキルアップ、そしてベテラン世代も含むすべての世代のデジタル設
 計への意識改革につながることが期待できる。
●運用:BIM活用の目的を明確にしながら、各分野の連携を計画し実践することが肝要であろ
 う。ガイドラインをベースにBIM設計プロセスの位置づけ(手順と効果)を明確にするチャ
 ンスでもある。加えて、PLATEAUとの関わり方や、環境データ連携やストックマネジメン
 トとのつながりなどを意識することで、より効果的な建築BIMモデルデータのつくりこみや、
 ビジネス化などへのプロセス拡大の可能性もでてくる。
●パートナー:意匠、構造、設備、コストなどの専門パートナーづくりのきっかけにもなり、
 業務上の裾野拡大にもつながると思う。ポイントは共に成長する意識の共有。さらに、特殊
 技術を有する専門協力会社などとの協働体制確立によって、業務領域拡大やスキルアップに
 もつながる可能性が期待できる。
●BIMの職能と役割:BIMコーディネーター、マネージャー、モデラー、プログラマーなどの
 職能や役割を定義づけながら運用してみることは、設計の効率化に加え、BIMによるクライ
 アントサービス目的やその在り方の拡大や変化の可能性が期待できる。特にBIMマネー
 ジャーは、欧米の動きに見られるように、従来の建築とデータの双方を理解し、データ標準
 化、ワークフロー戦略を組み立て、実行できる人材と捉え、同時に教育・育成を考えていく
 べきだろう。
 
多くは『やってみてみる』から生まれる…
これまでもそうであったが、事例を積み重ねることで見えてくるものがたくさんある。さらに、
その成果イメージを共有することはとても大切である。それぞれの手法が異なっても、共通点
や違いを見出し、その効果を体得できれば、個々のモチベーション向上やBIMも定着化し、結
果的に利用者や領域の拡大につながると考える。
BIMの流れにおいて、これまでこのような物理的に『皆でやってみよう』はなかったと思う。
この機会がきっかけになり、BIMやデジタル設計が拡大すれば、社会全体のデータ活用ポテン
シャルも大きく向上するだろう。筆者自身もBIMの次のステップの第一歩として大変注目して
いるし、機会があればプロジェクトなども支援していきたいと思う。皆さんにも、是非注目し
てほしい。

村松 弘治 氏

安井建築設計事務所 取締役 副社長執行役員