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コラム

続はじめてBIMが人の役に立ちそうな話

2023.04.20

パラメトリック・ボイス                   熊本大学 大西 康伸

自動設計に取り組みたいんです。ベトナムからの大学院留学生F君にやってみたい研究を尋ね
たとき、彼はそう答えた。

F君は建築設計に興味があり、BIMに関する研究についても、ぜひ設計に関係することに取り
組みたいとのことであった。
前回のコラム「はじめてBIMが人の役に立ちそうな話」でBIMを活用した応急仮設住宅の供
給迅速化の取り組みを紹介したそこでは仮設住宅の配置計画やその住棟設計の自動化につ
いて概要を記した。しかし、果たしてそれは自動設計と言えるものだろうか。F君との会話の
中で自動設計を説明すればするほど何だかそれは自動設計では無いような気がしてきた
れが、これまで気軽に用いてきた自動設計という言葉を改めようと思うきっかけであった。

自動設計文字通り受け取るならば自動で設計をすること。プログラムが自動で設計するこ
とはまだ難しいため、仮設住宅の取り組みで我々は人とプログラムが交互に作業を実行する
「対話的」なる概念を提示し、大切なことは人が決め、面倒なことをプログラムが行うとい
う、「半自動設計」なる苦肉の解決策を提案した。
そもそも設計とは何だろうか一般設計学の吉川弘之氏によると設計とはあらゆる人工物を
創造するために行う、機能空間から属性空間への写像であるとのこと。誤解を恐れずに言う
人工物に持たせたい機能を考えてそれを発現する仕掛け(ギミック)や形態、素材等と
結びつけることであるこれを仮設住宅の取り組みに当てはめてみると人は設計をしている
と言えそうであるがプログラムは設計上のルールに基づきBIMのコマンドを実行しているだ
けであって、これは果たして設計と言えるのか。

当該ルールは人が考えたものでそれを策定することは設計と言えそうであるしかしプログ
ラムが行っていることはルールという人からの指示に従いデジタルモデルを作るモデリン
グ」であるそうであるならば開発したプログラムは設計を自動化しているのではなく
デリングを自動化しているに過ぎない。
件の取り組みでは、遺伝的アルゴリズム(GA)を用いて住棟や駐車場の配置の最適化を行っ
ている。しかしそれは、少しずつ位置をずらしながらどれだけ配置できるかを確かめるとい
う、どちらかというとモデリングの部類に属することのような気がする。

かつて設計という行為と図面やパースを描くという行為は不可分であったように思う。しか
し、設計の場にコンピュータが浸透しBIMが普及しつつある今、人は紙と鉛筆で図面やパー
スを描く代わりにコンピュータでモデリングするようになり、そのモデリングも必ずしも人
が行う必要はなくなった。
設計の自動化のハードルは依然として高いが、モデリングの自動化の可能性は十分にある。

一方仮設住宅にも採用されている通称プレハブ。そこまで徹底していなくとも、鉄骨やプ
レキャストコンクリートなど工場で部材を製造加工し現場搬入後は最小限の加工と組み立
てのみを行うプレファブリケーションは、何十年か先に必ず到来する今現在のような方法で
は建物をつくれなくなる時代において建設業従事者の減少やスキルの低下という問題を解決
することが期待されている。
BIMは標準化のツールである。プレファブリケーションとBIMは親和性が高く、そこでのモデ
リングの自動化が大いに期待される。

数週間前、国内最大手のプレハブ設計施工会社の設計者でありBIM推進部署に所属する Y氏
かっこいいプレハブってできないものですかねという話をした。残念ならがいいアイデ
アを引き出すことはできなかったがイームズ邸や難波和彦氏の箱の家シリズの話題で盛り
上がり、プレハブ的な考えを採用しつつも建築的な魅力が余りあるものは少なくないという
話になったプレハブだからと諦めるのではなく次世代を担う建築であるプレハブだからこ
そ、であるそれはモデリングの話ではなく設計の話でありどうやらそこにBIMの出る幕は
なさそうだ。
 
さて、設計好きのF君の研究テーマをどうしようか。自動モデリングではきっと満足しないだ
ろう。

大西 康伸 氏

熊本大学 大学院先端科学研究部 教授