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コラム

建築BIMの時代24 建築BIMという挑戦

2023.10.12

ArchiFuture's Eye                 大成建設 猪里孝司

最近、「何もしないほうが得な日本 社会に広がる『消極的利己主義』の構造」(著:太田肇 
発行:PHP研究所)という本を読んだ。「何もしない方が得」な構造が、会社や役所だけでな
く、学校やPTA、町内会など一般社会に広がっている。リスクをとって何かに挑戦しても、う
まくいかなかった時の悪影響が大きい一方で、あえて挑戦しなくても直接的に損害を被ること
が無いという仕組みができあがっている。そのため組織や集団、社会として挑戦することがな
く、個々には少し窮屈だと思いながらも改善することなく、集団として徐々に衰退の道を辿っ
ている。また、何もせず集団に同調することが、かえって個人個人が生きにくいという感じを
持つことにつながっているというなぜ皆が同じ間違いをおかすのか 『集団の思い込み』を
打ち砕く技術」(著:トッド・ローズ 訳:門脇 弘典 発行:NHK出版)と通じる話である。
前回のコラムでふれた、長島雅則氏はまさに建築の世界にCADを普及させることに挑み、功を
成したといえる。長島氏が挑戦しなければならないという思いを持っていたかどうかは分から
ない。ただ自身の興味の対象がコンピュータと建築であり、それを探求する中でCADシステム
に出会い、それを日本の建築界に広めたようとしたことは分かる。何かに挑戦しようと大上段
に構える必要がなく、興味の赴くまま新しいことに取り組み、結果として、何かが変わり成果
が上がる社会が望ましいと思う。
 
国交省の建築BIM推進会議の活動は、大きな挑戦だといえる。これまで、建築界のさまざまな
ところで自然発生的に取り組まれてきたものを、共有できる目標を設定、一同に会する場を設
け、連携できる環境を構築したことに大きな意義がある。BIMの利用を拡げるための様々な取
組みも大変重要であるが、BIMを推進していくという意思表示と、そのためにさまざまなこと
に挑戦していくことを具体的な活動で示している点に意義がある。これまで営々と築かれてき
た建築に関するさまざまな考えや仕組みの中には、BIMがあることを前提とした時には変えた
方がいいものがある。慣れ親しんだものを変えることには抵抗がつきものではあるが、変える
ことの意義、効果を共有することで道は開かれる。私は、BIMやデジタル技術を前提とした建
築界の方が、これまでよりもいいものであると信じている。何かと大変だと思うが、私も含め
てBIMに関係する人たちがさまざまな場面で挑戦を続けてもらいたい。
 
建築をつくる側の人たちの間ではBIMの利用がどんどん拡がっていると感じている。手間や時
間がかかるが、それと見合うだけの効果を発見している人たちも多い。一方、建築を利用する
側の人たちは、BIMに対してさまざまな思いがある。JFMAのBIM・FM研究部会で議論してい
ると、効果に対する期待もあるが、費用や手間、継続性に対する不安が解消できないというこ
とに集約できる。期待に対する確信が持てず、足踏みしている状態といえる。BIMに向かって
一歩踏み出してもらうには、出来るだけ手間をかけずにBIMに近づく環境をつくることが必要
だと思っている。BIMによる空間のデジタル情報化は、建築を利用する人にとっても十分価値
のあることだと思うので、その手間や時間、費用のハードルを下げることが一番の近道である
と思う。建築を使う側の人たちがBIMに取り組むための手間、時間、費用を下げる挑戦を続け
たいと思う。この挑戦に力を貸してくれる人は、是非、JFMAのBIM・FM研究部会に参加して
欲しい。


 

猪里 孝司 氏

大成建設 設計本部 設計企画部長