Magazine(マガジン)

コラム

最近の3DCG業務の変化

2023.11.30

パラメトリック・ボイス          隈研吾建築都市設計事務所 松長知宏

今回は、プロジェクトのご紹介ではなく、建築CGについての雑感を記したいと思います。設
計事務所でCG担当者として入社し10年以上が経ちましたが、最近感じている3DCG業務の変
化についてお話しします。
 
近年インハウスのCGチームの役割は大きく変わりました弊社では設計担当者のほとんどが
3Dモデリングソフトウェア「Rhinoceros」を使用し、一部は「Revit」などのBIMソフトウェ
アを扱うようになりました。加えて、「Enscape」のようなビジュアライゼーションソフト
アの進化が目覚ましく設計担当者が3Dモデリングからビジュアライゼーションまで一貫
して行う流れが確立したと言えるでしょう。

これまでCGチームは、設計担当者が作成した3Dモデルを受け取り、ビジュアライゼーション
を行うのが一般的でした。しかし、現在では多くの設計担当者が「Rhino」と「Enscape」ま
たは「V-Ray」など使用し、2Dから3D、そしてCGまでの一連のプロセスを自ら進めるよう
になりました。これにより、フォトリアルなCGやVRが身近になり、打ち合わせでも当然のよ
うにパースを求められる場面も多くなったと聞きます。

一方で、コンペやプレスリリース用の重要なパース作成は今でもCGチームの重要な役割です。
ただし、設計のCGレベルが上がっていることもあり、単にフォトリアルなパースを作成する
だけでは不十分で、設計の意図を理解し、それを表現するいわゆる絵心が求められています。
この点では、個人的には竣工写真を撮影する写真家の仕事に近いと感じています。まだ完成し
ていない、存在しない建築の中を歩き回って、あたかも実在するかのように表現するための写
真を切り取る仕事と言えるかもしれません。

さて、生成AIの使用についてよく尋ねられますが、現時点では最終的なアウトプットとしては
使用せず、アイデアやリファレンスとして活用しています。将来的に成果品としてのCGを全
てAIで生成するような時代には、プロンプトを書くことが主な作業になっているかもしれませ
ん。これは可能性としては設計作業全般にも言えることです。

手書きのスケッチや模型作りと異なり、3Dモデリングは直接的な実体を持たないものの、形
状や空間とのインタラクションを感じる瞬間があります。手をつかってマウスを使用する以上、
3D上で形を変える操作は、物理的な手触りと似た感覚があるのではないでしょうか。これが
将来的にプロンプト入力作業に移行すると、このインタラクションはどのように変化するのか、
その未来がとても興味深いです。

 アンデルセン美術館コンペ時のパース 1 (2016年)
 当時はワークステーションの性能アップもあって植栽をCGで表現できるようになってはいた
 ものの、細かなところでフォトショップによるレタッチも多く利用していた。

 アンデルセン美術館コンペ時のパース 1 (2016年)
 当時はワークステーションの性能アップもあって植栽をCGで表現できるようになってはいた
 ものの、細かなところでフォトショップによるレタッチも多く利用していた。


    アンデルセン美術館コンペ時のパース 2 (2016年)

    アンデルセン美術館コンペ時のパース 2 (2016年)

松長 知宏 氏

隈研吾建築都市設計事務所 設計室長