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コラム

『場』づくりと『人の成長』

2024.01.18

パラメトリック・ボイス            安井建築設計事務所 村松弘治

新年早々にショッキングな災害、事故が発生しました。能登半島地震では多くの尊い生命が失
われました。亡くなられた方々へのご冥福を心からお祈り申し上げますとともに、被災された
方々に心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復興を祈りながら、公私ともにできる限りの
貢献をしていきたいと思っております。

引っ越し
年明けに新しいオフィスに引っ越した。そのような訳で、年末は引っ越し作業と調整で慌ただ
しかたのだが周到な準備が実たのか?・・・思いのほか順調にオプンすることができた。
勿論、新オフィスでは新しい試みが多いのだが、建築と関連ソリューションのプロフェッショ
ナルが多いためだろうか?目新しい環境への所員の順応も早く、意外とスムーズに回転し始め
たことには多少驚きもあった。

新たな働く場を考えた1年間
私たちは、スタッキングされたビルを離れ、築約60年のビル(これまでも都度、耐震補強や
外壁・内装改修を行ってきたのだが・・・)をリノベーションして使うことにした。この絶好
の機会に、エンゲージメントを高め、快適かつ働きやすい環境づくりとともに、オリジナルの
建築の生命力再現なども考慮しながら、「これまでにない、これからの設計事務所」の働く場
について、特に既成概念にとらわれず思考してきた。
思考の結果、メインコンセプトは、「自らのクリエイティビティを自らで成長させるチャレン
ジの場、働く場所を組み立てる場づくり」。

『自由・自主+自治・自立・自律』の場
特徴は『まちにひらく』そして『人が育ち/人を育てる』場づくりである。
3層にまたがる空間は、少しずつずれていく吹き抜けと階段により、ひとつづきの働く場にな
る。いわゆる「一筆書き、回遊性」のある《ワンオフィス》。使ってみると、顔が見えるコ
ミュニケーションの重要さを肌で感じる。
勿論、建物を利用し続けることによるエンボディードカーボンのカーボンエミッション、
ZEB-Oriented(エネルギー40%削減)、さらに自然の光や風を感じ、周辺の喧騒を感じなが
ら仕事ができるバイオフィリックテラスなど、閉じられた空間からの解放さもある。
さらに1階は、人やまちとの交流の場として開放し、さまざまな活動を企画・オペレーション
することで、個と組織のプロフェッショナルとしての幅を広げる狙いがある。

動きたくなる快適な場
ワンオフィスは自分の居場所を「つくる」ところから始まる。そのためには、一人ひとりがい
ろいろな工夫をすることになる。ペーパーストックレスなので、私はPCとモバイルモニター
を持ち歩いて、場所を選ばずに仕事をする。オフィスではあるが、まちのなかで仕事をしてい
るような感覚がある。ひとつづきの場は基本的に仕切りがないので、ぐるぐると歩き回る。そ
のため、人の顔が見え、会話も増える。時折、少し騒がしい感じもするが、それ以上に「つな
がる場」として大きなメリットを感じる。
一方で、この喧騒はさまざまな刺激となり、緊張感のある活力がみなぎるようにも感じる。そ
して、個々の仕事に対する緊張感にもつながっているようだ。

エンゲージメントを高める『創造の実験場』
Well-being+変化を楽しめる空間で豊かさを感じつつ、さまざまな部位でデジタル技術を使っ
てこの環境づくりを補助する。スマートフォンを利用した位置情報、サーカディアンリズム照
明の導入、BIMとも連動する温湿度検知などなど・・・。特に、室内環境測定は、快適性をコ
ントロールする統合的システムの構築の一環でもある。加えて、デジタル技術と絡めたさまざ
まな設備システムと環境性能、快適性、コストのバランス実験も計画する。今後は、これまで
の建築、デジタル技術への経験と取り組みを加速させつつ、多くの知恵を統合し、『新たなビ
ジネスモデルをつくりだす実験場』として稼働させることも狙いの一つにある。

次につなげるものは?
これからも働く場は常に変化する。人の居場所も変わる。今回はこれまでの概念を翻してつ
くった第一章であるが、第二章以降も常に変化に対応する場づくりが必要になるだろう。
『場』は人が生み出すものであり、建築も同様である。ゆえに『人が育ち/人を育てる』の意
図するものは、次の世代、将来の世代が、場の変化を楽しみ、新しい時代を先導する『場』づ
くりをすることにある。
次につながる意図はそこにあるのかもしれない。場づくりへのチャレンジから新しい発想と技
術がウマレル。



村松 弘治 氏

安井建築設計事務所 取締役 副社長執行役員