ラウンド・テーブル・セッションと
建築情報学会WEEK
2024.01.23
パラメトリック・ボイス
コンピュテーショナルデザインスタジオATLV 杉原 聡建築情報学会では毎年建築情報学会WEEKにおいて、建築家や研究者、学生らによるパネル・
ディスカッションであるラウンド・テーブル・セッションを開催している。これは建築情報学
会の大会に相当するイベントであるWEEKでの、従来の研究発表とは少し異なった、トピック
の提案者と招待されたパネリスト達との約1時間の議論を通じた学術交流の場である。これら
のセッションはWEEKの会期中にYouTubeで一般にライブまたは録画配信され、会期後は会員
限定で公開されている。2022年より始まりこれまでに28のセッションが行われ、トピックも
デジタル・ファブリケーション、ロボット・ファブリケーション、都市設計、不動産、建設技
術、建築理論、建築教育、人工知能、メタバース、インタラクションに関わるものなど多岐に
渡る。登壇者にはKostas Terzidis、David Ruy、渡辺誠氏などの著名な方や海外からの方も含
まれ、これまでに100人を超える方々が登壇し、約三分の一は英語でセッションが行われた。
筆者も二度セッションを企画し、2022年には「計算の連続性と離散性」というトピックでパ
ネリストにハーバード大学のAndrew Wittを招待し、2023年には「海外設計事務所における
建設のためのコンピュテーショナルデザインとBIMの実践 」というトピックで、Zaha Hadid
ArchitectsのPing-Hsiang Chen、元Herzog & de Meuronの井上修輔氏を招いてセッション
を行った。それらに関連する内容を過去のコラムに記したので、興味のある方は
2022年9月6日のコラムと、2023年4月4日のコラムを参照いただきたい。
このようなラウンド・テーブル・セッションの過去のものの中から筆者が個人的に興味深いも
のを幾つか以下に紹介する。2022年に行われた「アーキテクチュアルインフォマティクスエ
ンジニアの職能とこれから 」というセッションは、Woven Planetの渡邉圭氏の企画により、
株式会社GELの石津優子氏、archiroidの藤平祐輔氏、Nature Architectsの夏目大彰氏をパネ
リストに招待して、高い技能を持つコンピュテーショナル・デザイナーまたはアーキテクチュ
アルインフォマティクスエンジニアの登壇者の方々の職業としてのあり方や現場での実践が語
られ興味深い(図1)。
「ポスト・コンピュテーショナルデザインの潮流について 」のセッションでは、東京大学の
平野利樹氏の企画により、UCLA卒Bjarke Ingels GroupのCullen Yoshihiko Fu氏、南カリ
フォルニア建築大学在学(当時)の小嶋一耀氏、イエール大学卒SHoP Architectsの鮫島卓臣氏
をパネリストに迎え、アメリカの大学やデザイン研究における、コンピュテーションやロボッ
トなどの技術的先進性に対する注目が落ち着いた後のそれらを踏まえた哲学、歴史、心理など
人文的な方向にも目が向けられた潮流が語られた(図2)。
2023年の「ダンスする建築(ユーザーインタラクティブに変化する空間)」のセッションは
神奈川工科大学の北本英里子氏の企画で、東京大学の鳴海拓志氏、株式会社ホロラボの
伊藤武仙氏、東京大学博士課程の石田康平氏、元隈研吾建築都市設計事務所でバーチャル建築
家、idiomorph主宰の番匠カンナ氏をパネリストに迎え、AR、VR、メタバースの建築の技術
的側面に留まらず、知覚デザイン、社会行動デザイン、建築内でのイベント・体験そのものの
デザインの可能性が議論された(図3)。
「建築デザインのスタディ過程におけるコンテンツ生成AIの活用について」では、
立命館大学学部生大本和尚氏の企画で、千葉大学修士課程の前田雄飛氏、東京大学修士課程の
須藤望氏、京都大学博士課程の稲田浩也氏、大阪産業大学修士課程の梅津憂剛氏と杉原康太氏、
Kokokura_jp アーキテクチャ&テクノロジーズのKokokura_jp氏、「ケンガンオメガ」連載中
の漫画家のだろめおん氏、立命館大学修士課程の原田真衣氏をパネリストに迎え、総勢9名によ
るパネル・ディスカッションが行われ、生成系AIの建築に留まらない現在の取り組みに加え、
建築デザインへの可能性や実務への影響など多岐に渡る話題について議論がなされた(図4)。
「曲面形状を実現させるための設計」では元VUILD ARCHITECTS、viccの篠原岳氏の企画に
より、東京大学の林盛氏、viccの石原隆裕氏、筆者をパネリストとして、篠原氏が取り組まれ
昨年竣工したVUILDの東京学芸大学EXPG棟についてと各パネリストの発表の後に、曲面形状
の設計と施工の問題について、数理的な問題や、現場のコミュニケーションの問題、設計姿勢
の問題などが話し合われた(図5)。このセッションでの議論は話が尽きず、その続編となる
座談会がviccにて行われ、3回に分けてブログ(曲面形状座談会#1 設計・施工の制約とコミュ
ニケーション、曲面形状座談会#2 曲面のスタディ手法とコストの問題、曲面形状座談会#3イ
メージとしての曲面、CADの話など)に残されているので興味のある方はそちらもご覧いただ
きたい。
以上を含む過去の全てのラウンド・テーブル・セッションの動画は、建築情報学会の会員専用
ページより視聴可能である。
今年のラウンド・テーブル・セッションは2024年3月2日から3月5日の建築情報学会WEEK中
に開催され、今年のWEEKは初の会場開催も含まれ(3月2日から3月3日のみ)対面+オンライ
ン配信でのラウンド・テーブル・セッションも開催される(3月4日と5日はオンラインのみ
の開催)。今年は“Digital Liminality”をテーマに据え、デジタルと現実の境界領域の可能性、
さらにはそれが溶け合った先に現れる新たなフェーズの可能性を探求するようなトピックを募
集しており、それらは建築情報学に関連し学術的にも意義のあるものとしているが、かなり広
範囲のものが当てはまるため、学生や研究者、実務に携わる方々で、自身の興味を深めて共有
したり、活動を広めて交流を図りたい方々は、締切が1月28日と迫っているが、ラウンド・
テーブル・セッション募集要項ページより是非ともご応募いただきたい(図6)。
なお、筆者が実行委員長を務める今年の建築情報学会WEEKでは、ラウンド・テーブル・セッ
ション以外にも、建築情報学生レビューや、基調講演、キックオフパーティー、
Challenge2023最優秀賞作品展示など様々な企画が開催される。3月2日に開催される建築情
報学生レビューは建築情報学に関わる卒業研究・設計、修士論文・設計、大学院での研究・設
計を発表する学生を募集しており、こちらも興味がある学生は建築情報学生レビュー2023 開
催概要ページより応募いただきたい(締切は1月31日)。
基調講演は、今年も録画講演ではあるが、モーフォシスのトム・メイン氏を迎え、モーフォシ
スでの情報技術による設計の進歩と自身の建築理論の発展について講演いただく(図7)。
キックオフパーティーはWEEK初日3月2日の夜に開催され、これまでの建築情報学会Meet Up
のように参加者の交流イベントが行われる。また昨年建築情報学会Challenge2023のインスタ
レーション・デザイン・コンペティションが開催されたが、先月審査の結果選ばれた最優秀作
品(図8)が制作されてWEEK会場で展示される。建築情報学会WEEK2024は、この他にも盛
りだくさんの内容のイベントとなっており、来場参加登録は来月より開始されるが、読者の皆
様の参加をお待ちしている。