3DCGパースと竣工写真
2024.04.11
パラメトリック・ボイス 隈研吾建築都市設計事務所 松長知宏
前回に引き続き、いわゆる建築パースについての独り言です。
設計者も簡単にピカピカでキレイなパースが作成できる現在、建築3DCGの担当者としての強
みはなんだろうかと、よく自問します。前回のコラムではそれをぼんやりと絵心という言葉で
表現しましたが、好みも含めて評価のし難いものです。
大前提として、建築パースは竣工を前提とした建物の完成前のイメージであり、竣工後に必要
となることはありません。実物、竣工写真があるため当然と言えば当然ですし、そもそもの
パースのゴール・目標として求められるのも実物、竣工写真のようなフォトリアリスティック
なイメージというのが基本です(もちろん国内のプロポーザルなどで多くみられるような、手
描きもしくは手描き風のスケッチ調のパースも健在ですがそちらについてはまた別の機会にお
話ししたいと思います)。
私が入社した当時はCGパースを描くために3Dモデルを起こしているケースも多かったです
が、今では立場が逆転し、設計を進める上での3Dモデル、BIMのように作り込んだ3Dモデル
が先にあって、パースはある意味で副産物のような立場とも言える状況です。
このような儚い立場の建築パースではありますが、フォトリアルを達成できたところで正解と
いう訳でもないのが難しいところです。
レンダリングの設定には制限がありません。通常イメージを作成する際はシーン上にカメラを
設定してレンダリングするのですが、CGソフト上とはいえ、現実世界のカメラ同様、レンズ
の焦点距離、フィルムの規格、絞り値、シャッタースピード、ISO感度など、さまざまなパラ
メータを設定できます。前回のコラムでもパースのアングルを決める時は写真を撮るようなと
いう表現をしたのですが、まさに3D空間の中をカメラを持って彷徨うイメージです。ただし、
シャッタースピードがどんなに遅くとも手ブレの心配はありませんし、F0.1のカメラだって作
れてしまいます。
現実ではできないような全く制限のない夢の道具=カメラを使いながら、それでも目標として
いるのはフィルムカメラで撮影していた時代から基本的には変わっていないフォトリアルな竣
工写真というアンバランス。思い切っていろいろな表現のパースがあってもいいじゃないか、
と試行錯誤はしてみるものの、あくまでも建築が主役、設計者が伝えたいことを曲げてしまっ
ては元も子もありません。
先日、弊社のプロジェクトで多くの竣工写真を撮影されている写真家の方とお会いする機会が
あり、その中ではっとするお話しを伺いました。
私が特に好きな写真に、朝焼けの富士山をバックになんとも言えない柔らかな光で建築を捉え
た写真があるのですが、伺ったところ、その写真の撮影時には日の出前から現場で待機してそ
の一瞬を捉えたとのことです。
どんなに自由度が高いCGソフトでも自然のつくるその一瞬の景色と説得力をシミュレーション
することは至難の業です。結局のところ自由度が高いと言っても、シミュレーションの一部の
変数の話でしかなく、CGを作る際のテクスチャにしろHDRI(画像をつかってライティングす
る技術)にしろ、限られたアセットの組み合わせにすぎないことに気がつきました。
技術的な腕はもちろんのこと、その風景、環境の中で建築が一際輝く瞬間を予感できる想像力
といえるでしょうか。そんな想像力を培っていくことが、絵心のヒントになるように思いまし
た。