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コラム

拝啓、建築学科をめざす高校生

2024.09.05

ArchiFuture's Eye                  広島工業大学 杉田 宗

先日、高校3年生の姪っ子が広島にある女子大のオープンキャンパスに行くというので、親の
代わりに同伴することにしました。私は広工大のオープンキャンパスで毎年学科のデジファブ
ラボにはり付いて高校生への説明をしているので、広工大の他の学科がオープンキャンパスで
何をやっているのかも知りません。今回は他の大学がどのように魅力を伝えているのかを勉強
する目的もありました。
 

 広工大のオープンキャンパスの様子

 広工大のオープンキャンパスの様子


いざキャンパスに到着すると、女子しかいない環境に圧倒されました。いやいや、それだけで
はない。キャンパスに建っているおしゃれな校舎に度肝を抜かれました。神殿のようなたたず
まいの建物に入ると、巨大な吹き抜け空間が広がり、そこをエスカレーターで登っていくよう
な校舎。これから建築を学ぼうとしてる高校生なら「こんな場所で学んでみたい!」と思うは
ず。「うちは中身で勝負じゃ!」と言いたい所ですが、もう姪っ子の目はハートになってい
て、改めて環境の重要性を感じたのでした。

最近はオープンキャンパスをやっていない大学が無いくらいなので、受験生や受験生を持つ保
護者の方々も同じような体験をされているかもしれません。今回はそういう方々に向けて建築
学科を目指す高校生が見るべきポイントについて考えます。

最初のポイントは大学が楽しい場所になっているかどうかです。大学での活動は「授業」と
「授業外」に分けられますが、今の日本の大学は「授業外」に楽しいことが少なすぎる!1年
生として入学しても、授業以外に目立ったことがないとみんなすぐに帰宅しちゃいます。今は
みなLINEで地元の友達と継続的に繋がってるので、全く新しい環境に放り出されて、新しい
交友関係を作らないと、と思う学生が少ないのかなと考えています。学生主体のサークルや部
活動、飲み会など「授業外」が充実してるところは◎。

コロナ禍によって、伝統的に続いていた「授業外」の活動が途絶えてしまったところも多くあ
ります。一度途切れると復活させるのは結構難しい。高学年になって研究室に入るとまた変
わってきますが、そこまでの数年間、授業だけで建築を教えたり学んだりするのには限界があ
ります。正直、先輩から教わることや同級生と一緒に体験することの方が「授業」から得られ
ることよりも多いし、あなたを変える可能性を持っています。だから楽しい場所でより長い時
間過ごすことを目標にすべきです。

しかしながら、オープンキャンパスは週末にやってる場合が多いので、この部分に触れるのは
難しいです。可能なら学期中の放課後に大学に行ってみましょう。学生たちが残ってなにか楽
しそうにやってるところは、ポイント高いです。ついでにそういう大学生と仲良くなって色々
教えて貰えばいい。大学に入らないと建築は学べないなんてルールは無いですから。

次のポイントは教員と研究室。大学は高校以上に専門性の高い先生が幅広く在籍しています。
それぞれがどんな研究をしているのかとか、どういった建築を作っている建築家なのかを調べ
てみましょう。専門的過ぎて内容が分からないかもしれませんが、大きく分けると、計画系・
構造系・環境系の3つ分野に分けられます。多くの学生は建築士やデザイナーを目指して入学
してくるので、まずは計画系のところに目が行きがちですが、数的にはそれ以外の教員の方が
多い大学がほとんどです。逆にこれまでにない新しい材料の研究をしている先生や、コン
ピューターを使って最先端の環境シミュレーションを研究している先生がいたりします。建築
はこれら3つの分野が重なって初めて成り立つので、建築教育もとても横断的な教育をしてい
ます。学科の教員を俯瞰して見て、どれだけ多様な専門家が集まっているのかを知ることで、
他との比較ができるようになると思います。また、先生同士の仲がいいのも重要。結構ギク
シャクしてるところも多いですから…。それが学生たちにも及んでくると目を覆いたくなりま
す。

今は大学側も広報の一環として教員や研究室の紹介に力を入れているので、比較的調べやすい
と思います。また、教員個人や研究室のSNSアカウントを通して、活動の発信をすることも一
般的になりました。そういうところからのリアルタイムな情報に触れるのも良い参考になるで
しょう。

最後のポイントは教育内容。特に1年生の授業が楽しそうかどうかは重要です。大学だと4年
間、大学院まで行くと6年間勉強することになりますが、1番モチベーションが高いのは1年生
の前期。ここで建築って面白いなって感じる機会がないと残りの大学生活はなかなか実りませ
ん。建築教育って設計演習などちゃんと腰を据えてやらないと達成感さえ得られない授業もあ
り、これが我慢大会みたいになってしまうと建築自体が嫌になってしまうケースに陥ってしま
います。私はこれを教育側の課題だと思っていますが、学生の能力が原因だと片付けちゃって
る教員も一定数いるので注意が必要。まず最初に建築の楽しさに触れられる授業が並んでいる
大学が良いし、こういうところに教育の創造的が詰まっていると思っています。

一方、建築系の学科は建築士になるための必修科目を教える役割も担っており、どの大学でも
教えている内容に大きな差が無いという事実もあります。そこに含まれないプラスアルファの
部分や、何をどの学年で教えているのかに差が見られます。そういう部分に注目して調べると
比較がしやすくなると思います。私は1〜2年生の低学年に授業を多めにして、上に上がるにつ
れて授業が減っていくピラミッド型がベストだと考えています。4年になって研究に明け暮れ
ても良いし、学費を払うためにアルバイトに専念する学生もいます。逆ピラミッドだと、1年
生からアルバイトを入れすぎて2〜3年で学業の方が崩壊してしまう学生がいます。卒業が目的
になっちゃうのも問題ですが、せっかく大学に入学しても卒業しないのは本当にもったいない。

これから大学を選ぶ高校生にはこういうポイントを見て欲しいと思います。大学って2個3個
行くようなものじゃないので、卒業後振り返って比較するようなことができません。進学を決
める際に、自分の大学生活を想像しながらどこが良いのかをしっかり考えないといけないので
す。大学は人生の中で1番体力があり最も自由な時間を過ごす場所です。より良い大学生活を
過ごすために貪欲に突き進んでください。

杉田 宗 氏

広島工業大学 環境学部  建築デザイン学科 准教授