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コラム

デジタルファブリケーションと伝統工芸の融合

2024.09.26


私は先日、京都工芸繊維大学のKYOTO Design Labが主催し、FabCafe Kyotoが運営協力するHoudiniセラミックプリントのワークショップにHoudini講師として参加しました。このワー
クショップでは、セラミック3Dプリンタを題材に、プロシージャルデザインの手法を用いて
3Dモデルを作成し、プリント出力、釉薬の表現、焼成までを体験しました。社会人も参加可
能なオープンワークショップであり、参加者の多様なバックグラウンドが融合する貴重な機会
となりました。

講師陣には、釉薬の専門家である潮桂子さん、代々続く陶芸家の諏訪蘇山さん、ファブリケー
ションに精通したDesign Labの井上智博さん、そしてHoudiniの世界的なYouTubeチャンネル
を持つ堀川淳一郎さんが参加し、異なる専門領域のコラボレーションが実現しました。

ワークショップの流れ

  • Week 1|9/7(土):Houdini基礎のオンラインレクチャー
  • Week 2|9/14(土)- 15(日):セラミック3Dプリンタを使ったワークショップ
  • Week 3|9/21(土)- 22(日):釉薬やフード3Dプリンタを使ったワークショップ
  • Week 4|9/23(月):講評とお茶会
このワークショップのきっかけは、私が3Dプリンタを使ってGコードで遊んでいた際、フィラ
メントプリンタのノズル径が小さく、もっと自由度の高いセラミックプリンタを使いたい、し
かしセラミックプリンタは陶芸工房がないから難しいと、堀川さんに話したところKYOTO
Design Labには陶芸工房があり、セラミックプリンタも保有していることから、井上さんを
交えて話が進み、伝統工芸の先生方とも協力しながら、プロジェクトが具体化しました。それ
が3月頃の話でした。



準備と試行錯誤
準備は6月頃から始まり、私はHoudiniでセラミックプリンタのデータ作成を担当、井上さん
はプリンタや焼き物の実験を行い、そのフィードバックを基にデータを調整していく流れでし
た。何度も試行錯誤を繰り返し、粘土と水の調整やプリントデータの最適化を探る過程は、非
常に学びが多かったです。セラミックプリンタを使う上で見つかった水と粘土の黄金比は、5
種類のセラミックプリンタを試して、プリンタの種類を問わないこともわかりました。

以前はファブリケーション系のワークショップでは、一人でファブとデータの両方を担当して
いたため、大変な面もありました。しかし、今回は井上さんをはじめとしたチームのおかげで
安心してデータ制作に集中することができました。特にファブリケーション部分は試行錯誤が
多く、時間と労力がかかるため正直なところ「もう自分ではファブ系ワークショップをやる
のは難しいかもしれない」と感じていたため、今回のようなファブリケーション系のワーク
ショップを6年ぶりに開催できたことは感慨深いものでした。

今回のワークショップに興味があるなら一緒にやりましょうとお声がけをいただいたとき、
「準備に十分な時間を確保できるだろうか」「他の方に迷惑をかけてしまわないだろうか」と
不安があり、迷いがありました。しかし、Design Labチームから「ファブ周りは全て任せて
ください。学生も誘ってDesign Labが出力や実験を担当するので、心配はいりません!」と
いう力強い言葉をいただき、そのおかげで不安が払拭され、最終的に参加を決心することがで
きました。


多様性がもたらす学び
ワークショップで特に感動したのは、参加者たちがセラミックプリンタを囲んで楽しそうに談
笑する姿です。彼らの興味や感想はさまざまで、コンピュテーショナルデザインに関心がある
人、焼き物に惹かれている人、教育に熱心な人など、バックグラウンドも多様でした。同じ体
験を共有しているにもかかわらず、得られる学びや気づきが一人ひとり異なるという点が、
ワークショップの魅力だと改めて感じました。

大人になっても、何かに挑戦することで心が躍る体験ができること、そしてその体験を共有す
ることで楽しみながら成長できるのだと実感しました。特に失敗や試行錯誤を通して得た教訓
は、事前の知識だけでは得られない、貴重なものです。

多様な参加者がセラミックプリンタを操作しながら徐々に打ち解け、失敗したピースを悔しそ
うに見つめる姿や、完成した作品を「見てください!」と嬉しそうに満面の笑みを浮かべる姿
は、まるで子供のような純粋な喜びが感じられました。年齢を重ねても、そのような心の動き
は変わらないものだと改めて感じました。この経験を通じて、大人にはもう学ぶ意味がないと
考える一部の人たちにこそ、ぜひこの場に来て、挑戦することの喜びを再発見してほしいと思
いました。

伝統工芸と先端技術
また、陶芸家の先生方が新しい技術に対して前向きに取り組む姿勢や、粘土の扱い方や私たち
が全く知らない知識を自然に教えてくださる姿は、とても魅力的で、専門家とはこういうもの
だと深く感銘を受けました。特に諏訪さんが「伝統工芸も昔からその時代の最先端技術を取り
入れてきたんです。セラミックプリンタも純粋に面白いですよ」とおっしゃった言葉には、
代々続く陶芸家が持つ「時代を受け入れる力」、そしてそれを積極的に取り込む挑戦的な姿勢
が感じられました。これは、建設業界にも通じる重要な視点であり、伝統を守りつつも新しい
技術に挑む姿勢こそが、持続可能な未来を築く鍵であると感じました。


実体験の重要性
私が日々感じることの一つは、実体験こそが個々の意見や個性を形作るということです。誰か
の体験を聞くだけでは、心は動かず自分の考えや意見は生まれにくいです。実際に自分で体験
することで、他者から得た情報が自分の感情で塗り替えられ、新たな視点が得られます。

よく「誰かが既にやっているから意味がない」という意見がありますが、旅行と同じで、誰か
が既に訪れた場所でも、そこに自分が行くことで新しい発見や感動が得られます。同じワーク
ショップであっても、参加者それぞれが異なる体験をし、それを通じて得るものは一つとして
同じではありません。


個性と実体験
ワークショップを通じて、多様なバックグラウンドを持つ参加者が協力し合い、新しい発見や
学びを得る姿を見ることができたのは、本当に素晴らしい経験でした。大人になると、子育て
や仕事で自分の時間が制限されがちですが、このような場で新たな挑戦をすることで、まだま
だ自分の可能性を広げられると感じました。

自分自身の体験を増やし、それを通じて新しい気づきを得ることが、今後も大切だと感じてい
ます。学びや挑戦を続け、自分の心が躍る体験を積み重ねることで、個性が育まれていくのだ
と思います。

学生時代からの知人である井上さんや堀川さんが、私の個性や現状の制限をそのまま受け入れ
てくれながら、今回のワークショップを共に企画・開催してくれたことには、心から感謝して
います。彼らの理解とサポートがあったからこそ、私は安心して挑戦でき、自分の力を発揮す
ることができました。このような仲間の存在が、プロジェクトを成功に導く大きな要因だった
と感じています。

女性の活躍や子育てと仕事の両立について、よく大きな枠組みでのサポートが語られますが、
最終的には、個々に対して応援し支えてくれる存在が1人でもいれば、それだけで頑張れると
いう、人情的な側面が重要だと感じます。そうした関係性をどれだけ築けるかが鍵であり
れこそが学生時代に、さまざまなインターンシップやワークショップに行けたことによって得
られた大切な財産だと思います。互いに応援し合える仲間とのつながりが、今の私を支えてく
れています。また、私たち3人が出会えたのも、NOIZの豊田さんがインターンを受け入れてく
れたおかげであり、心から感謝しています。


最後に
最後に、今回のワークショップに参加してくださった皆さん、そして準備や開催に尽力してく
れたFabCafe Kyotoの皆さんやKYOTO Design Labの皆さんに、心から感謝を伝えたいと思い
ます。皆さんの協力があってこそ、このワークショップは成功し、多くの学びと新たな挑戦が
生まれました。皆さんのサポートに深く感謝し、今後もこの素晴らしいつながりが続くことを
願っています。そして、このワークショップをきっかけに、新しい陶芸、コンピュテーショナ
ルデザインや建設技術に挑戦していく方々が出てくることを、とても楽しみにしています。

石津 優子 氏

GEL 代表取締役