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コラム

BIMとAIの融合による持続可能な建築

2024.10.17

パラメトリック・ボイス            安井建築設計事務所 村松弘治

WELL認証と私たちの取り組み
先日、筆者のオフィスでWELLのGold認証を取得する機会があった。WELL認証には多くの基
準が設けられているが、私たちは単に基準を満たすだけでなく、自分たちのイノベーションス
タイルをベースに「実態に合った快適さ」を追求し、実際の活動に即した空間づくりを目指し
た。その結果、すべてにおいて先進的高評価を得、かつ運営費用を抑えながらも、快適な空間
づくりをすることができた。例えば自律的なオフィス運営のプロジェクトチームはエネルギッ
シュで快適なオフィスを提供する新規概念としての評価や、1階での音楽などさまざまなイベ
ントはパンデミック後のコミュニティを再構築するためのイノベーション戦略との評価を得て
いる。
このような革新的アプローチでWELLを取得するのは珍しいようであるが、私たちのこれまで
の創造学習が反映された成果だと感じている。快適な体験を積み重ね、新しい発想を組み合わ
せることが、今後の暮らしやすい空間の創造につながっていくとは思うが、もしAIを利用した
らもっとスムーズにかつ包括的、発展的に快適な空間づくりができるかもしれない。

AIによる空間づくりの可能性
最近、建築情報学会主催の短期集中型オンラインワークショップ「Fes 2024」で、AIを使っ
た空間づくりを目にした。もちろん7者のメンターの課題設定も興味深いものがあるのだが、
建築系ではない学生たちが、思考や行動を基にAIを活用して空間設計を行う姿は、一般の
人々が建築やまちづくりに関わる時代が来たことを実感した(建築情報学会 Fes 2024 Final Presentation ※クリックするとYouTubeにリンクします)。
もちろん、建築学生もAIを活用して高度なプレゼンテーションや生成AI画像等による設計検
討、そして快適性を含めた空間づくりを行っている。とても驚いたのは、これらの検討をわず
か一週間余りで行い、高品質の成果を表現できていることである。
現段階では、建築としてのクオリティにはまだ向上の余地があるものの、AIは確実に建築分野
の裾野を広げているように思う。

BIM-AIの活用でライフサイクル計画を革新的アプローチで創造する
すでにデザインをはじめ生成AIはさまざまな活用がされているが、建築分野にどのように絡め
ることができるか?以前にもこのコラムの「設計者はAIにどのように向き合うか?」
PLATEAU-BIを紹介しているが、最近、BIMをベースに、BIツールを使って建材や部材の選定
やエネルギー効率の最適化に取り組んでみた(下図)。


これは、以前のコラムで紹介したIoTセンサーを利用したエネルギーマネジメント「リアルな
建築からデジタル空間情報を取得するプロセス」
にもつながる。この技術はBIMデータを外部
ソフトウェアと連携(連動)させ、各属性数量の分析が可能であるため、建設における廃棄物
の最小化やリサイクル資材の活用、さらにはエネルギー効率の向上にも寄与する。結果的に、
持続可能な材料の評価や、環境負荷の軽減を図ることで、ライフサイクルマネジメントや環境
マネジメントの実現も可能になる。
このようにBIMをベースとしたAI活用は、膨大なデータから合理的かつ短時間に、かつ包括的
にさまざまな課題解決に対応でき、最終的に快適な環境づくりにつなげることができる。

快適な環境づくりの新たな視点
環境問題はエネルギー効率や脱炭素だけでなく、生物多様性の保護、既存建築の活用、人々の
活動に関連する健康デザインやバイオフィリックデザインの有効性まで含まれる。これらを統
合した持続可能なまちづくり・建築づくりが、今後ますます重要になってくる。
WELL認証やFesの事例を通して感じたのは、AIがこのような複雑な環境デザインを包括的に
解決する力を持っているということである。建築と循環型社会との関係性が、AIの活用によっ
てさらに明確化されてきたように思う。
 

村松 弘治 氏

安井建築設計事務所 取締役 副社長執行役員