リアルな建築からデジタル空間情報を取得する
プロセス
2024.05.28
パラメトリック・ボイス 安井建築設計事務所 村松弘治
BIMとエネルギーマネジメント
今回は、私たちが取り組んでいるIoTセンサーを利用したエネルギーマネジメントについて話
をしたいと思う。
筆者の事務所ではこれまで、建築の維持管理フェーズの運用ツールとしてBIMをベースにした
BuildCAN(進化するICTデザイン(4)~スピンアウトするデジタルデザイン)やパノラマmemo
(遠隔コミュニケーションがものづくりプロセスを変え始めた)を開発・運用してきた。今回
の話題であるIoT-エネマネシステム(仮称)〈下図〉は、これまで培ってきたセンシング技術
やデータ分析の経験・知見を集約し、エネルギー管理統合Ver.として進化、構築したものであ
る。リアルな建築からデジタルで空間情報を取得するフローを確立している。
脱炭素のためのLCM
GX2040ビジョンの国家戦略策定が議論される中、エネルギー源や産業構造の変革、脱炭素投
資促進がさらに強調されてきている。特に建築分野では、今後ホールライフカーボン(Whole
life Carbon)を目指した脱炭素事業やその経営が一層求められることになるだろう。
脱炭素建築は、エンボディードカーボン(Embodied Carbon)を下げる超寿命化や維持管理のし
やすさ、そしてエネルギーを使わない建築を基本に、さらにリサイクルやリユース手法を取り
入れたカーボンレスを意図している。したがって脱炭素建築の実践のためには、カーボンエミッ
ションの大部分を占めるエンボディードカーボン、とりわけエネルギーを使わないLCM(ライ
フサイクルマネジメント)の取り扱いがより一層重要になってくる。
IoTエネルギーマネジメントへの取り組み
的確なLCMのためには、デジタルツインを活用したエネルギー量の予測シミュレーションが必
要である。
これには当然、自然エネルギーの活用や運用をも考慮しなければならない。
この取り組みを具体化するために、筆者のオフィスにおいてはIoTを活用したエネルギーマネジ
メントの実証実験を行っている。この実験では、室環境の温度・湿度・CO2などをセンシング
し、それをクラウド上で質・量的に制御するのだが、同時にエネルギー分析と適正空間環境へ
のコントロールやマネジメントも可能にしている。さらに人はそれぞれの体調や空間環境の好
みに合わせて場所を選んで仕事をすることもできる。といった人の感性と空間性能の関係をビ
ジュアル化する検証をも含む。
主流となるオペレーショナルデジタルツイン―BIMの新たな活用―
このようにしっかりとしたLCMの導入は、結果的に快適な空間をコントロールしながら、エネ
ルギー量を削減し、LCC(ライフサイクルコスト)を縮減し、脱炭素につなげる効果がある。
そのためには、オペレーショナルデジタルツイン上でのプロセス実行が必要になる。加えてプ
ロジェクト/事業の初期段階で建築環境をシミュレートするプロセスが確立、定着することで、
エネルギー削減や脱炭素化にも大きく貢献することができる。さらに、今後、制御系を補強・
確立すれば、環境負荷低減のコントロールの自動化も期待できる。
このように次世代の設計プロセスは、オペレーション側からアプローチするデジタルツインが
確実に主流になるだろう。このようなアプローチは、一つの建築→地域の建築→まちの建築の
オペレーショナルカーボンを削減するとともに、必然的にエネルギー産業にも影響を与え、効
果的な環境問題解決の方法になりうる可能性を秘めている。ここにオペレーショナルデジタル
ツインに注力する意味があると考える。