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コラム

続・BIMのメリット実感してます?

2024.10.29

パラメトリック・ボイス               前田建設工業 綱川隆司

半年前の今年4月に同じタイトルのコラム「BIMのメリット実感してます?」を書きました。
今回はその続きですが、なぜそれを選んだかについては後で触れたいと思います。読み返して
みるとこの半年間で、歴史的株価の暴落があったり、世界規模で観測史上最高に暑い夏であっ
たり、気候変動に因るものなのか全国で痛ましい豪雨被害が続くなど、起きた事象の大きさに
改めて驚きます。予測不能の時代と言われていますが、VUCAという言葉も今や思考停止の言
い訳にも似た無責任な言葉に聞こえます。そう、我々の業界もすでに避けられない危機の顕在
化が始まっています。その要因の一つが技術者不足です。これまでの仕事量と品質を維持する
ための人的リソースが足りなくなることは以前から分かっていたはずなのですが、これも一種
の正常性バイアスだったのでしょうか?2024年問題と合わせて業務遂行の上で大きな課題と
なっています。
 
我々も準備を怠っていたわけではなく、多くの企業が生産性向上を目指し情報化・DXの推進
に取り組みBIMはその中心的役割を担ているはずですBIM適用件数をKPIとして、何らか
の形で援用を図れれば良しとし、適用率100%を目指していたかもしれません。しかしながら
BIMへの少なく無い投資に対し、その効果について定量的な評価ができたかと言えば難しかっ
たのではないでしょうか。
或いは業界のデファクトスタンダードが固まるその日まで様子見を決め込もうとしていたが、
近年国交省が本腰を入れ始めたので流石にそろそろ重い腰を上げざるを得ないと思い始めた企
業もあることでしょう。
 
あまりイメジだけで語ってはいけないのでデタを探しましょう。国交省の建築BIM推進会
議のアンケート調査(R4年12月)と日建連のBIM啓発専門部会 2023年度 活動報告を合わせ
て見てみます。
 
そこから見えてくる現在の状況は
・BIMの導入企業は半数近く(4割強)まで(未回答の企業を無視すれば)増えてきた
・導入企業のうちメリットを享受できていると感じているのはさらに4割程度に留まる
・導入企業のうち8割程度がBIM人材不足に悩んでいる
となりそうです。企業単位の回答ですので少人数・少物件でも使っていれば導入済みとなり、
実際の「利用者」をベースで考えればかなり少ない人数ではないかと推察します。
 
ここからは私見ですがBIMは所謂ハイプ・サイクルの幻滅期にあると思います。要因とも言
える二つの側面を考えたいと思います。
 
まず一つ目はBIMの運用に必要な人カネ時間の話。これらは一体で「BIMはお金がかかる」
という認識で括られています。私自身も「BIMを実現するためには設計料を割増する必要があ
るのか?」という質問を頻繁に受けました2000年代のBIM黎明期はBIMにインセンテブを
与えていた海外での事例に倣って「3割増しでしょうか」と自信無さげに答えていましたが、
自分が必要と思って使っているので実際に追加をもらったことはありません。ただし関連技術
の開発費であったり、クラウド等の付属機能の利用料であったり、一般的な2次元CAD運用よ
り金食い虫と周囲に思われていたのは事実でしょう。ここで注意すべきことは2次元CADと
BIMとそれぞれ2重で作業していないかどうかです。何度かコラムで触れていると思いますが、
図面が先行して後追いのBIM入力では当然余計な工数を必要としますまたBIMから2次元図面
を切り出した後の変更対応についても、注意しないと図面を修正した後でさらにモデルを修正
という2重の作業を発生させることになります。
これについては生産性を意識した業務フローをしっかり確立させることが大事です。行き過ぎ
たフロントローディングもオーバーランで手戻りを引き起こす要因となります。
 
もう一つの側面はBIMに対し詰め込む情報の量です。あれやこれやと風呂敷を広げるとBIMの
入力要領が増え過ぎて大変な思いをするのと自社固有のオブジェクトや入力ルールでなけれ
ば使えないサイロ化したシステムになっていきます私なりの幻滅要因としては未だに何らか
の開発が個社で必要となっていることが挙げられます。付加価値を期待しての開発とは思いま
すが、業界のスタンダードと呼べる芯が明確でないためにサプライチェーン含めた成熟には
至っていないと思います。
 
さて今回のコラムのタイトルですが、Archi Future 2024のパネルディスカッション「BIMの
理想から現実へ」を意識して選んでいます。辛口トークを期待されているようなので、自身
のBIMについての現状認識を反省も込めて少し厳しい目で書いています。コラム掲載日は
Archi Future終了後らしいので、当日結論に辿り着けたのか話が発散して終わったのか分かり
ませんがパネラの方々と会場の皆さんも含めて「同じ舟に乗っている」と私は認識してい
ますので忌憚のない意見を出し合うことで何らかの今後のヒントが見つかれば良いなと思い
ます。

 図:今後のBIMシナリオのマトリクス

 図:今後のBIMシナリオのマトリクス


当日こんな話がしたいなと思い、今後のBIMシナリオを考えてみました。正解は一つではな
く、いくつかの可能性が考えられると思います。縦軸にサプライチェーンの考え方、横軸に適
用(注力)する工程を置いたマトリクスを描きました(上図)。サプライチェーンについては
建設業独特の複雑性が課題ですが、対応としては垂直統合を図るか(上方向)水平分散を図る
か(下方向)が考えられます。垂直統合は強者戦略とも言え、クローズした最適なシステムが
狙えて実現すれば効果が高いと思いますが、一方で今後起こり得る環境の変化に弱いかもしれ
ません。水平分散は弱者戦略かもしれませんが変化に柔軟に対応が出来、本来のOPEN BIMの
理想形に近いのかもしれません。
横軸の工程については所謂スマイルカーブの付加価値が高いとされる上流・下流を狙う(左方
向)か或いは付加価値の低い中流に留まる(右方向)かが考えられます。前者は事業者側が主
体となるためデータシェアリングが重要になるかと思います。後者は請負者側が主体となる現
状に近いBIMになりますので少々閉塞感もありますが、これは我々ゼネコンの本分でもありま
す。
これらの四象限の何処にシナリオを描くかが今後のBIM戦略の分かれ目になりそうですが、正
直なところ時間は限られています。果たしてどこを掘り下げれば良いのか、鉱脈探しの様なも
のかもしれません。
 

綱川 隆司 氏

前田建設工業 建築事業本部 設計戦略部長