BIMとプロジェクトマネジメントと
Archi Future 2024と
2024.11.28
パラメトリック・ボイス
Unique Works 関戸博高
今年も「Archi Future 2024」の催しに参加し、企業の展示を見て回った。私にとっては、こ
れは毎年の定点観測のようなものであり、BIM・建設DXのビジネスがどのような動きになっ
ているかを肌で感じる良い機会となっている。今年は参加者も出展企業も随分と増え、会場は
「百花繚乱」または「カオスchaos」状態になっているように感じた。今までの状況とは次元
が異なり、全体像を掴もうとしても、「群盲象を撫でる」(注1)ことになりそうな気がした。
ひとりの技術者がこれだけの情報を系統立てて消化するのに、どのくらいの時間を費やすのだ
ろうと余分な心配をしてしまった。大きな組織なら担当を分けて理解し、組織の力にすれば良
いが、小さい組織ではそうはいかないだろう。オタクな人は別として、今後組織の規模の違い
は、ますます情報蓄積の差となっていかざるを得ないと思った。また、気になったのは、重要
なステークホルダーの「発注者」のことだ。どれだけの「発注者」がこの会場を訪れ、建設業
の今を理解しようとしているのだろうか。「発注者」の賢さは、建築関係者の賢さを鍛える力
になるので、参加する価値は大きいはずだ。
もうひとつ触れておきたいことがある。パネルディスカッションについてである。BIMを取り
巻く現状について、各登壇者から現場で起こっていることの報告がなされた。その内容はそれ
ぞれによく考えられ、整理されたものだった。私としてはその上で更に「ではどうする?」と
言うディスカッションとその着地点を聞きたかった。
ここから先は、私の関心事によるのだが、ディスカッションするには、何らかの共通基盤が必
要である。発表された内容は、何らかの「プロジェクト」に沿ったアレコレの話なので、BIM
はある種の道具と位置付け、「プロジェクトマネジメント」と言う上位概念によって、その
BIMの性能や使用法、または組織のプロジェクトマネジメントの質の良し悪しなどを比較する
ことで、「ではどうする」という提案への議論をしてもらいたかった。
こう思うのは私だけで、自分の関心事の「BIMを使ったプロジェクトマネジメント」に引き寄
せ過ぎているのかも知れない。だが欲を言えばキリが無いが、折角の機会なので、あのメン
バーには、もっと人・組織を中心に置いた日本のBIM的世界を語ってもらいたかった。そして、
共通する背景として、体系だったプロジェクトマネジメント論が必要だといった話へ展開して
もらえたら、大変満足したのにと思った次第である。
ここで少し寄り道して経営用語としての「プロジェクトマネジメント」について触れておきた
い。「マネジメント」について、ドラッガーの考えをベースに、私は以下のように理解してい
る。
「マネジメント」は、組織のリーダーがその目的を遂行するために、部下や関係者を動機づ
け、リソースを最適に配分することが必要で、これを通じて組織の効果性と効率性を向上さ
せることを目指すこと。また、「プロジェクトマネジメント」は、一時的な組織において、
具体的な目標に基づいてリソースを効果的に配置し、プロジェクトの計画、実行、監視、評
価を通じて目標を達成する過程のこと。通常の業務とは異なり、プロジェクトは限られた時
間とリソースで明確な成果を上げることが求められる。また、成果を上げるためには、計画
と実行の一貫性、リーダーシップの発揮、そして柔軟性が不可欠であり、プロジェクトの成
功には、組織内のチームメンバーとの協力、役割分担の明確化、目標達成のための細かな進
捗管理が求められる。
これに呼応するように、ペンシルバニア州立大学の「BIM Project Execution Planning
Guide」(注2)の最終章では、いくつかの実際のプロジェクトをケーススタディとして分析
した上で、成功のための「十の提言」がなされている。そこには次のような人・組織・マネジ
メントに期待するメッセージがリストアップされている(筆者意訳)。ここでは各文末に付け
た()内に、上記の「マネジメント」との対応を記しておいた。
1)各プロジェクトチームにはBIMチャンピオン(BIM推進者)が必要である(リーダーシッ
プの発揮)
2)プロセス全体を通じてのオーナーの関与は極めて重要である(目的の遂行への関係者の
動機づけ)
3)プロジェクトチームにとっては、共有とコラボレーションのオープンなコミュニケー
ション環境を育むことが極めて重要である(組織内のチームメンバーの協力)
4)BIM プロジェクト実行計画手順は、異なる契約構造/形態にも適応可能である
5)後の不整合を防ぐために早期の計画には大きな価値がある(目標達成のための細かな進
捗管理)
6)BIM計画は生きた文書として扱うべきである(必要な計画、実行、監視、評価)
7)初期計画を策定したら、定期的に見直すことが必要である(同上)
8)計画の成功を保証するためには、適切なリソースの提供が必要である(目標に基づいた
リソースの効果的な配置)
9)プロジェクト開始前に組織的なBIMプロジェクト実行計画を作成することで、プロジェ
クトの計画時間を短縮することが可能である(目標達成のための細かな進捗管理)
10)BIMプロジェクト実行計画手順は、プロジェクトの元の範囲を超えた複数の用途や状
況に適応可能である
この提言を読んで感じるのは、米国ではBIM使用が経営課題として扱われているのに対し、日
本のBIMを扱う環境はさまざまな分野がサイロ状態にあり、かつ技術偏重であるということだ。
「では、お前はどうする?」と問われそうだが、今回はここまでとし次回としたい。
(注1)「群盲象を撫でる」:視覚障害者への差別用語だとする見方もあるようだが、真意は
そこにない。インド発祥の寓話。『木を見て森を見ず』 と同様の意味で用いられ、『物事や
人物の一部、ないしは一面だけを理解して、すべて理解したと錯覚してしまう』 ことの、例え
としても用いられる(Wikipediaより)。
(注2)ArchiFuture Web コラム240924号参照:「再び建築プロジェクト・マネジメントを
追いかけて(関戸博高)